Perspective

石化・凍結などの所謂『固め系』の話題について、アレコレ呟きながらじわりじわりと更新されるブログです。脱不定期更新を目指してSSにも現在挑戦中。

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ポリエチレン・ケイジ(1)

前回の記事で宣言しました通り、本日から本腰を入れて創作に取り組みたいと思います。
とは言いましても、今回の更新ではまだプロローグ部分の掲載です。
肝心の固め描写までは至っていませんが、まずはお試し感覚で目を通して頂ければ幸いです。

勿論、この物語はフィクションであり、実在する人物・組織とは一切関係ありません。
お気づきの点がございましたら、お気軽に私までご一報下さいませ。

それでは宜しければ、追記よりご覧下さいませ。


>>次の話

――ここは、わたしがいて良い場所ではない。
澄美は元々頭の良い方ではなかったが、それだけは何となく解っていた。


膝を抱えて身体を丸め、固く目を閉じる。
そんな胎児の様な体勢で、澄美は狭い浴槽に全身を沈めていた。
彼女の長い髪は水中で揺れ、ふわふわと肌を撫でてくれる。
微かに漏れた吐息は即座に泡になり、ぶくぶくと音を立てて目の前を通り過ぎていく。
水温は入浴するには少々温めになっていたが、今はそれが妙に落ち着いた。
まるで、海の底で海藻と戯れているような心地だった。
心地良さに任せて、澄美はもう少し空想に浸る事にした。
記憶の中にある海中の光景を、出来る限り鮮明に頭の中に描き出す。

脳内にイメージとして浮かんできたのは、夜の海中だ。
そこで澄美は岩陰に横たわり、水底に僅かに降り注ぐ月光を全身に浴びている。
遠くからの波音しか聞こえない、本当に静かな夜だった。
時折、小魚の群れが彼女の目の前を通り過ぎていく以外は、特に何事も起こらない。
穏やかな水の流れに身を置く時間だけが、ただ緩やかに流れて行く。
――あっ。でもお腹がすいたら、どうしよう……?
澄美がそう思うと同時に、彼女の目の前に蟹と貝が忽然と現れた。
手を伸ばして蟹と貝とを捕まえると、澄美はそれらを口の中に放り込む。
――おいしい……!
どちらも身が引き締まった、とても美味な物だった。
ふと前を見ると、さっき食べたのと全く同じ種類の蟹と貝が、また澄美の目の前に現れている。
そうだ。小腹が空けば、どんどん出てくるのを捕まえて食べれば良いのだ。
思う存分ご馳走が食べられると解ると、澄美の頬も自然と緩んだ。
何しろこれは空想の世界だ。全てが澄美の都合の良いように事が運んでも、何ら不思議ではない。
何物にも束縛されない世界が、澄美の頭には確かに広がっていた。
――このまま本当に、海の底に行けたらいいのに。
薄暗い風呂場で、一人そう考えた。

「……うん?」
澄美の空想の世界に、微かに異音が混入した気がした。
水中に沈めていた頭を持ち上げると、確かに風呂場の外から音が聞こえてくる。
澄美は浴槽に浸かったまま風呂場の扉を開けた。
「あ、あっ……」
その途端、澄美の表情が強張った。
眼が大きく見開かれ、額からは栓が開いたように汗が流れ出す。
確かに音は澄美の部屋から聞こえていた。
甲高くて耳触りな音。自然界の物では有り得ない音。
その音は部屋越しに聞こえてきたとしても、澄美には耐え難い恐怖を与える物だった。
咄嗟に頭を浴槽に沈め、耳を押さえた。
このまま耳を押さえ続けていれば、そのうち音は聞こえて来なくなるかもしれない。
そう願いながら、殊更に耳を押さえる両手に力を入れた。
お願いします、見逃して下さい、お願いします、お願いします……
不快音を掻き消すように、頭の中で何度も悲鳴を上げたが、どれだけ待っても音は鳴り止まない。
それどころか、次第に大きくなって聞こえてくるように感じられる。
――もう駄目、これ以上我慢できそうにない。
もはや耐え切れず、澄美は浴槽から飛び出した。

コンクリート壁に囲われた六畳一間。
窓も無いその部屋の中心で、今やアンティーク同然の黒電話がけたたましく着信音を鳴らしている。
まるでウツボかサメみたいだ、と澄美は見る度に思う。
この小さな領域にも無遠慮に入り込み、我が物顔で気が済むまで暴れ続ける。
そして少しでも手を触れようものなら容赦なく噛み付き、気が済むまで澄美の事を虐めるのだ。
黒電話特有の黒く鈍い光沢も、澄美はどこか禍々しい物と感じていた。

澄美はしばらく黒電話を情けない表情で眺めていた。
今この瞬間にも、相手が諦めて音を鳴らすのを止めてくれるかも知れない。
こういう時は数字を数えたら良いと教えてもらった覚えがある。
困ったり慌てたりした時は、眼を閉じて10まで数えれば大抵の事はとにかく何とかなるらしい。

――1、2、3、4、5、6、7、8……あれ、次は何だったっけ。
8の次だから、手の指は5本みたいだから、それに、えっと、えっと……

頭を使う事が苦手な澄美は、数を数える事に関しても同様だった。
8までは順調に数字を思い浮かべる事ができるが、必ずと言っていいほど9という数字で思考がつまずく。
澄美は8以上の数字がある事を取りあえずは理解しているのだが、それを表現する事は彼女にとっては大きなハードルになっている。

途中で解らなくなって来たので、何回も最初から数を数え直した。
1から8の数字を16回ほど繰り返し、ようやく澄美が9とそれに続く10を数えても、それでも電話は鳴り止んでいなかったので、澄美は諦めて受話器を手に取った。
恐る恐る、口から言葉を絞り出す。
「……は。はい。す、す、澄美です……」
この部屋に電話を掛けてくる相手と言えば、考えられるのは一人しかいない。
自然と声は蚊の鳴く様な小声になり、酷くどもるようになる。
「グズね。一体どれだけ私を待たせれば気が済むの?」
「す、すみまっ、す、すみません……」
開口一番、受話器の向こうから中年女性の罵る声が聞こえてきた。
低い凄味のある声だった。鮫に勝るとも劣らない威圧感に、反射的に謝る声が涙混じりになってしまった。
「どんだけ待たせてもコールが3回鳴るまでに電話には出る。最初に電話を渡した時にそう説明したはずよ。それをあんたは5分以上も待たせて……その狭い部屋で何をしていたらそんなに時間が掛かるのよ」
「……お、おふ、お風呂に、入って、ました……」
「はぁ、風呂?」
数を数えていた事は言わなかった。
正直に言っても、結局バカにされる事が解っているからだ。
「そ、そうです。お風呂に入っていたので、で、電話の音に、き、き、気が、気が、付きません、でした」
「……変ね。あんな狭い部屋にいて、電話の音が聞こえないって事、本当にあるのかしらねぇ?」
只でさえ凄味のある受話器の向こうの声が、一段と低くなった様な気がした。
絡み付く様な口調は、まるで舌舐めずりする鮫が目の前にいるかのような錯覚すら澄美に与える。
澄美の視界が、じわりと涙で滲んだ。
「い、いえっ、そのっ」
「ふん、まあいいわ。身体を拭いて着替えていたから電話に出るのが遅れた、そういう事にしておいてあげとくから」
「……すみません、すみません……」
頭を何回も下げながら、澄美は自分の身体を見た。
慌てて飛び出してきたので、実際は服を着ていないどころか、身体も濡れたままになっている。
澄美の身体から流れた水滴が、受話器を伝って畳に落ちた。
「それはそうと、今から事務所。来れるわよね?」
「い、今から、ですか?」
「これでも余裕を見て呼んでるのよ。幾らあんたでも2時間もありゃ来れるでしょ」
「え、あ、あの、あのっ……」
「急ぎなの、7時までに来なさい」
一方的に電話は切れた。

いつもこうだ。
こっちの事なんてまるで考えずに電話を掛けてきて、命令するだけして一方的に話を打ち切る。
そんな意地の悪い相手に、もう何回、受話器越しに頭を下げてきただろうか。
8回、9回、10回……思い出してみようとしてみたが、やっぱり9でどう数えたらいいのか解らなくなったので止めた。
ともかく、この電話を受けてしまった以上は『事務所』と呼ばれる所に行かなければならない。

使い古された黒電話とボロ布同然に傷んだ毛布、それに表面の所々が錆ついた冷蔵庫。
澄美のいる部屋に置かれている目ぼしい物は、その三つだけだった。
コンクリートの壁に囲われている事も手伝って、若い女性の部屋としては酷く殺風景だ。
趣味の物を置いたらどうだと言われた事もあるが、趣味という言葉の意味からして良く解らないのでそのままにしている。
基本的に部屋に閉じこもって過ごす澄美には、適度に腹が膨れるだけの食料と、頭から被れば手軽に闇を作れる毛布があれば十分なのだ。
これで電話さえ無ければ、この殺風景な部屋も彼女にとっては住み心地の良い場所になるに違いない。

澄美は受話器を置くと、冷蔵庫の扉を開けた。
扉の向こうからひんやりとした冷気が流れ出し、澄美の頬を撫でた。
冷蔵庫の中には、蟹のフレークと鯖の水煮の缶詰、そしてミネラルウォーターの2リットル入りペットボトルが雑然と収納されている。
買い物も出来ない澄美が飢えない様にと、定期的に支給がされている物だ。
その冷蔵庫の奥に、何重にもサランラップで包まれたタッパーが置いてある。
澄美はタッパーに手を伸ばし、慎重に取り出した。絶対に落としたりしないよう、細心の注意を払う。
タッパーの中からはゴロゴロと重い音がする。氷が動く音だ。
良かった。この感じならまだ当分は大丈夫だろう。
安心した所で、澄美はタッパーを胸元で思い切り抱き締めた。
風呂上がりである事など関係無いかのように、強く、強く素肌に押し付ける。

タッパーを抱きしめながら、何度も蓋を開けたい衝動に駆られた。
実行するのは簡単だ。蓋の角に添えた指に、少し力を入れるだけで良い。
だが、まだできない。
今この蓋を開けてしまえば、何もかもが台無しになってしまうかも知れないと念を押されているからだ。
それだけは絶対にあってはならない。
タッパーの中身を失う事は、澄美自身が命を失うのと同じなのだ。
だから今は、こうして抱き締める事が澄美に出来る精一杯だった。

>>次の話

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  1. 2011/02/06(日) 23:58:50|
  2. 創作
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:2
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コメント

第一話から不気味で、妙な不安感を植え付けられる展開!

> タッパーの中身を失う事は、澄美自身が命を失うのと同じなのだ。

もう最後のこの一文だけで、この物語に出てきた様々な謎※との繋がりがすごく深いものであると悟り、気になって気になって仕方がなくなりました!


・何故コンクリート打ちっぱなしの部屋なのか
・電話の主は何者か
・タッパーを開けることが命を失うことと等価なのは何故か
・そして、『ポリエチレン・ケイジ』というタイトルの指す意味は!?

第二話が楽しみです!
  1. 2011/02/07(月) 07:06:05 |
  2. URL |
  3. 石眼 #-
  4. [ 編集 ]

ご感想ありがとうございます!

ご感想ありがとうございます。
まだまだ手探り状態のSSですが、やっぱりご感想を頂けますと大きな励みになりますね。
文章の書き方や物語の構成など、身に付けなければならない事は山ほどありますので
それらを私が今後習得できるかどうかも見守って頂けますと幸いです(笑)

>第一話から不気味で、妙な不安感を植え付けられる展開!

特に、このように言って頂けたことが嬉しかったです。
物語の掴みで大体の雰囲気が伝わったのだとしたら、目標である『読みやすい文章』にちょっとでも近づけた気がしますね。
……さすがにまだまだこれからですが(笑)
ご興味を持って頂けた澄美の素性はもちろん、フェチ的に山場となる石化に関しても力を入れて行くつもりですので、気長にお付き合い頂ければ幸いです。
  1. 2011/02/09(水) 01:03:18 |
  2. URL |
  3. みつくりざめ #halAVcVc
  4. [ 編集 ]

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