Perspective

石化・凍結などの所謂『固め系』の話題について、アレコレ呟きながらじわりじわりと更新されるブログです。脱不定期更新を目指してSSにも現在挑戦中。

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ピュグマリオンのジレンマ(1) 愉しみは撃破の後で

「さて、と……ここら辺の魔物は粗方片付いたかしら?」
ナクリは身の丈程もある巨大な剣を軽々と振るい、叩き斬った魔物の血を勢い良く振り払う。
見渡す限りの砂漠に見えるのは、魔物と呼ばれていた者共の残骸、そして3体の石像。
彼女の他に動く物は、只の一人として見当たらなかった。

 砂漠に立つ3体の石像は、どれもが女性を象った物だった。
花崗岩を徹底的に磨き抜いた様に滑らかな線を持つ、非常に真新しい作りの石像。
灰色の一色ではあるものの、仄かにしっとりとした光沢が艶めかしい彩りを添えていた。
絶えず砂交じりの風が吹き抜ける砂漠に佇んでいるにもかかわらず、石像達は元来備えていたであろう姿を微塵も崩してはいない。
石像に違和感を覚える者がいたならば、その人物は優れた洞察力を持っていると考えて良い。
そこに佇む石像は、ヒトの手による常識的な行程を経て造られた物ではないからだ。

 モスコビー砂漠に生息する、トカゲに似た魔獣バシリスク。
あらゆる物を石と変える毒をその牙に秘め、文字通りの一撃必殺で獲物を仕留める熱砂の狩人。
ナクリの周りに立つ石像は、正にそのバシリスクの群れによって作り出された物だった。
――つまりは彼女の仲間たちの末路の姿、と言う事になる。

 自分一人を残し、仲間の全てが石像と化す。
そんな絶望的な状況の中にありながらも、ナクリの表情はどうした事か明るかった。
仲間が物言わぬ姿となった事を悲しんでいるとも、自分一人が砂漠に残された事を嘆いているようにも見えない。
それどころか鼻歌まで口ずさんでいる始末。今のナクリは、とりあえずは絶望とは無縁の様だった。

「うんうん。これはまた見事に固まったわねー、期待通りの完成度だわ」
得物の大剣を地面に突き立て、そう言うナクリの声は間違いなく弾んでいた。
剣を振りかぶった姿勢で石塊と化したクロエの尻に手を這わせ、苦しげに胸を反らした姿の像となったエステルの頬に軽く口づけをし――
そんな石像の群れが立ち並ぶ中、ナクリの足取りは軽い。
その足取りが半ばステップに近付きだした頃になって、彼女ははたと足を止めた。

「おっ、いたいた」
目の前にはやはり石像が一体。
流れるような曲線を描く髪の造形も美しい女性譜術師の像――石化したティアの姿がそこにあった。
身体を折り曲げ、深々と俯いた状態で身体を硬化させたティア。
激痛に苦しむ一瞬をそのままに固定させられた姿には、普段の冷徹さすら感じさせる毅然とした佇まいは感じられない。
 今はむしろ真逆。見るも哀れな姿の石像として、その身体を砂風に晒しているだけだった。
そんなティアを目の当たりにして、ナクリは思わず叫び声を上げる。
「……いいッ!」
力いっぱい叫んだので、思いっきり唾が飛んだ。

「やっぱりね、このメンバーでも最初に眺めるなら、それはティア一択だと思うのよ、私」
腕を組み、何度もうんうんと頷きながら、ナクリは石化しているティアを無遠慮に眺めまわす。
「最初に見た時にピピッと来たと言うかね……この娘は絶対に石化しなきゃならないって思ったのよ。ガチで」
世界樹が遣わした存在とは思えない、常軌から掛け離れた内容の台詞。
それをナクリは余りにもナチュラルに、そして幸福そうに話すのだ。

 彼女という存在――ディセンダーは通常、何も知らない状態でこの世界に産み落とされる。
それ故に恐れも不可能も知らず、ただ自分が信じる道を進み、やがて世界を危機から救う――はずなのだが。
ナクリの場合は、非常に特異なディセンダーだった。
彼女はどういう事か『美しい少女を石化させたい』という強烈な願望を抱いてこの世界に現れたのだ。
それは余りにも常識の斜め上を行きながらも、同時に純粋すぎる願望だった。
理由や理屈などと言う細かい物など、元よりナクリに在りはしない。
 初めて訪れたモスコビー砂漠でバシリスクの姿を見かけた時、ナクリは内心で歓喜に打ち震えたと言う。
この地を自分の理想郷にするのだ、と。

「そりゃ確かに他の娘だって甲乙付け難いわよ。身体の線が綺麗に浮き出たクロエのえろさは極上だし、エステルの見るからに清純派っぽい小振りな胸も捨て難い」
石と化しているが故に全く無反応なティアを尻目に、ナクリの一人演説は続いた。
仮にティアに意識が残っていたのならば、一向に石化を解除しようとしないナクリに内心で抗議の声を上げたに違いない。
完全な石の塊となり思考を手放した事は、ティアにとって不幸中の幸いだったと言える。
「何と言うのかしら、ティアは格別に私のツボを付くと言うかなんと言うか……ああっ、ぴしっと言語化できないのがもどかしいっ」
先程から彼女が延々と語っている内容を要約すると、とにかくティアはナクリの心をがっちり掴んで離さない存在らしい。
「……ま、年上好み、って事でいいか」
取りあえずは無難な結論に落ち着いた。
16歳のティアが年上なら自分は一体何歳なんだろう……という疑問も浮かばなくもなかったが。

「まずはお顔を拝見といきますか。でも……」
ティアは身体を激しく折り曲げて石化しているため、真正面からでは表情が良く見えない。
「こんなに俯いちゃって……そんなに見られたくない表情でもしてるのかしら。例えば泣いてるとか」
それはそれで琴線に触れる者があると思いつつ、ナクリは更に半歩ティアに近づいて中腰の姿勢を取った。
体勢を低くし、顔をティアの胸辺りに近付け、真下から彼女の表情をまじまじと伺う。
石像と化しているティアは、当然抗議の声の一つも挙げずにその行為を静かに受け入れた。

――そして、時間の経つ事およそ5分。沈黙はやはりナクリによって破られた。
「うん……うん。うんうんうんうんッ!」
首を何度も何度も縦に振り、湧き上がる昂りを全身で表現する。
汗が滲むまでに握り締めた両拳は、余りの喜びに小刻みに震えていた。
「レベル高い娘はやっぱり固まり方も半端無いわー、意識せずにここまでツボを凝縮された石像になるなんて……これはもう神に愛された才能と言わざるを得ない!」
まくし立てるように感想を述べたナクリは、込み上げてきた唾をゴクリと飲み込むと。

「さて、ここからはじっくりと眺めて行くわよ……ッ!!」
あくまで冷静な目で石像を眺めるべく軽く深呼吸をし、まずは普段から見慣れている左目の方を見る。
――凛とした眼差しがそこにはあった。
石と化したティアの瞳は、単なる凹凸に成り下がってはいても尚厳しい視線をこちらに向けているような錯覚をナクリに与える。
ティアをよく知る彼女ですら、一瞬気押されてしまいそうな視線。
その瞳から受ける印象は、哀れな体勢とは裏腹に普段のティアと何ら変わりは無かった。
「バシリスクを石化する直前まで睨んでいたのかしらね。ここら辺は見た目通りの凛とした印象だわ。だけど――」

顔を真横に並行移動し、前髪に隠れた右目の前に持ってくる。
普段は前髪に隠れてあまり良くは見る事が出来ない右目も、前髪の一本一本が石と化した今ならば隙間から確認する事も可能だ。
髪の隙間から見えるティアの右眼は、事更に固く閉じられていた。
深く皺を刻みこんだ目元が訴えかけていたのは、恐らくは恐怖の感情。16歳の少女として、ごくごく当たり前の反応だった。
 仮にナクリが平常心を持ってティアを眺めていたのなら、そこに石化した涙を見つける事が出来たのかも知れなかったが。
「……くーッ、これこれこれッ!私が見たかったのはこの表情よッ! 普段はツンツンしてるってのに、ある時チラリと見せるこの儚さ健気さ意地らしさッ! これ、これこそがティアの真髄なのよッ!」
――石化したティアを前に欣喜雀躍する彼女には、到底無理な話だった。

「……ふぅ」
更にそれから時間は経過した。
砂漠の風はナクリがティアの石像を前に狂喜している間も容赦なく吹き続け、彼女がいる場所にも相応の量の砂を撒き散らしていた。
ふと視界に入った石化したクロエとエステル。
身体に砂が堆積し始めるまでに放置していた事に気づき、どうやらナクリも少しばかり頭が冷えたらしい。
「これ以上この二人を放っておくのも流石に気が引けるわよね……仲間には違いない訳だし」
捻じれた願望こそ持ち合わせてはいるが、ディセンダーとしての最低限の良心は残っていたようだ。
「そろそろ引き上げ時かなー。本当なら石化したままお持ち帰りしたい所なのだけど……またあのチビッ子キャプテンの心証を害しそうだし」
三体の石像を連れてバンエルティア号に戻った自分に「事情を説明して下さいッ!」とまくし立てる幼い指導者の姿を思い浮かべ、ナクリは苦笑した。

 腰に提げた道具袋からキュアボトルを三本取り出す。
これを一振りすれば、ティア達は石から生身の姿へと戻る。後は適当に状況を説明して帰還すればいい。
だがナクリは、もう一度ティアの姿を頭から爪先まで眺めると、努めて冷静に呟いた。
「最後に、これだけはやっておかないとね」
ナクリの視線は、ティアの身体の一点に集中された。
「長い髪にそこはかとなくボディラインを強調した服。でもティア最大のツボは、やはりこれを置いて他には無い――ッ!」
胸。
美麗な形状と抜群の存在感。その二つを見事に両立している稀有な胸。
アドリビトム内で密かに『メロン』という称号で讃えられていた極上の胸。
今この瞬間に限り、それをナクリは自由にできるのだ。加えて微動だにしないティアの姿は、まるで自分を待っているようにも見えた。
だから、ナクリは――迷いなど微塵も感じさせない猛ダッシュで、石の胸へと飛び込んだ。
冷たい石として硬化しているはずの胸は、しかしながら不思議な暖かさと心地良さをナクリに感じさせて。

 砂漠の太陽は、未だ高く空にある。
ディセンダーの愉しみは、もう少しの間続きそうだった。

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  1. 2000/01/01(土) 07:00:00|
  2. 創作
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