Perspective

石化・凍結などの所謂『固め系』の話題について、アレコレ呟きながらじわりじわりと更新されるブログです。脱不定期更新を目指してSSにも現在挑戦中。

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ピュグマリオンのジレンマ(2) 砂塵の中の石像群

渓谷に囲われた荒涼の地に、砂交じりの風が吹く。
数多存在する世界の砂漠がそうであるように、グラニデ西部に広がるこの地、モスコビー砂漠も昼と夜とではその顔を異にする。
熱砂に覆い尽くされた砂漠は、夜の訪れと共に寒冷の地へと姿を変え、熱気と冷気が代わる代わるに訪問者を苛むのだ。
同時にそこは、人間すら自らの滋養として貪ろうとする多肉植物や、発狂した低級の小精霊らが跋扈する砂の魔境。
魔物に抗う力を持たない旅人はおろか、熟達の冒険者であっても危険な場所でもあった。

その過酷な地を、一人の少女が進んでいた。
小柄な身体を水兵を思わせる服装に包んだ少女。その顔立ちには、体形に相応しく幼さが多分に残されている。
リボンで結った髪が歩く度にぴょこぴょこと、頭の天辺で愛らしく揺れていた。
だが、その愛らしさに反して彼女の歩みは力強い物でもあった。
足元の砂を一歩、また一歩と踏みしめる姿からは、力強さこそあれ疲弊した様子など微塵も感じさせない。
熱や冷気を孕んだ風が身体を打ち付けても、ただ前だけを確かに見据え、少女は一人砂漠を進む。

 少女は一振りの剣を携えていた。
刀身に青い輝きを湛えた両刃の剣。柄に当たる部分には、鳥の翼を彷彿とさせる装飾が施されている。
壮麗な造りの剣だった。無骨な戦士が握るよりも、それは確かに彼女の様な可憐な少女にこそ相応しいと言えよう。
だが、驚くべきはその剣の寸法――それは、少女の身の丈程もあった。
確かに少女は小柄ではある。だが、人一人の身の丈に匹敵する剣から放たれる斬撃の破壊力が如何ほどの物か――それは最早、語るべくもないだろう。
少女が護身用に持つ物にしては、それは余りにも巨大すぎる代物だった。

筋骨隆々の巨漢の戦士のように、軽々と肩に担ぐという事は流石に出来ないようで、両手剣は地面に引きずりながらの持ち運びではある。
だが、剣が砂漠に刻んできた軌跡には一切のブレは見当たらなかった。
渓谷で分断された砂漠を、まるでペンで線を結ぶかの様に伸びて行く剣の軌跡。
そこに横たわる数多の魔物の残骸が、彼女がその剣を自在に操る使い手である事を言葉無く物語っていた。
剣を構成する物質が極めて軽量なのか、あるいは彼女の卓越した身体能力が為せる業か――
一つ確かな物を挙げるとすれば、図らずとも彼女が剣で刻んだ道程は、そのまま彼女の揺るぎない意思を表しているという事。
熱砂も夜の冷気も、そして砂漠の魔物どもですら、彼女にとっては何の妨げにもならなかった事だろう。

ただ、少女――カノンノの眼差しには、少なからず不安の色が浮かんでいた。
彼女が単身でこの地を訪れた理由。それは希少材質の採集でも魔物の討伐でもない。
「ナクリ、みんな……無事でいて……!」
意図せず、口から一人の女性の名前が漏れる。
そのナクリなる女性こそ、世界樹が生み出した救世主・ディセンダーであり、そしてカノンノが探す人物でもあった。
ナクリと彼女の同行者。合計4名がこの地、モスコビー砂漠で消息を絶ったのだ。

事の起こりは簡単な依頼だった。
モスコビー砂漠でアクアマリンの原石を採掘して持ち帰る、ただそれだけの事。
人が気安く足を踏み入れる場所でない為か、モスコビー砂漠でアクアマリンを見つける事は非常に容易い。
それらしい場所をマトックで掘り出せば、実に高い確率で原石が掘り出せるのだ。
加えて現地に向かうのは、アドリビトムが誇るいずれ劣らぬ精鋭揃い。仮に魔物と遭遇しようが、さしたる危険も無く排除できる。
出発は正午前だった。4人で手分けして当たれば、物の数刻で用は済むはず。
夕食の時間までには依頼を終えて戻って来る。そうカノンノは考えていた。
むしろ、楽観していた。

――甘かった。如何なる場合にも『絶対』という物は無い。
その事に気付いた途端、カノンノは愛用の両手剣を取り出し、ギルドの移動拠点バンエルティアを飛び出した。
無断外出は厳罰の対象。これは彼女が所属するギルドの掟の一つだ。
勿論カノンノもその事は重々承知していたが、胸の底から湧き上がる焦燥を抑えきる事は出来なかった。
誰もが想定に含めていなかった最悪の事態が、現在進行形で起きているかも知れないからだ。
既に空には、夜の帳が下りていた。

これが見間違えである筈は無い。
カノンノの目の前に立っている人物は、背恰好や服装、容姿に至るまでティアと完全に特徴が合致している。
断言できる。これは間違い無くティアその人なのだ。
それなのにどうして、こんなにも違和感と、そして不安を感じてしまうのだろうか――
「ティア……?」
ティアの名前を呼ぶが、彼女からの返事は無い。
それでも砂漠の風に声が掻き消されないよう、十分に距離を詰めての呼びかけだ。声は間違いなくティアに届いているはず。
決して口数が多い訳では無いティアだが、全くの不愛想という訳でもない。
カノンノの正面からの呼びかけを無視してしまう等という事は考えられなかった。

更に一歩、ティアに近づいてみる。砂を踏みしめる音が、奇妙なまでにカノンノには大きく聞こえた。
それでもティアは姿勢を変えようとはしない。ただ、視線を地面に落とし続けているだけだ。
彼女は身体を激しく折り曲げ、全身で苦痛を訴えるような姿でその場に立ち続けていた。
彼女の口からは苦悶の声は一つも聞こえてこない。それどころか、呼吸音の一つすら今のティアは立てていない。
――ティアは、確かに目の前にいる。
だがそれは、カノンノが知る毅然としたティアではない。
「う、嘘……」
儚げに身体を折り曲げる所作。そして何よりも印象を異にするのは、頭から爪先まで寸分の隙無く灰色の一色に染め上げられた身体。
灰色のティアはカノンノの声などまるで聞こえないかのように、同じ姿勢のまま硬直していた。
「これって……!」
ティアの身に一体何が起きているのか、それを言葉にするのには僅かな躊躇いがあった。
もしそれを声に出せば、この異常な現実を認めてしまう事になるのではないか。
だが、胸の奥底から湧きあがる不安が、その言葉を喉元へ押し上げる。
自然と、声は出た。
「……石化、しているの?」
石化。読んで字の如く、身体が石の如く硬化する超自然的現象。
変化は身体のみならず衣服や装備品にも及び、石化の影響を受けた被害者は一つのオブジェとしてその姿を晒し続ける事になる。
全身が硬化している為に呼吸は完全に止まり、当然の事ながら声を出す事など叶わない。
ティアの無反応も、石化しているのであればむしろ当然の事だ。

カノンノは物心が付いた時から今に至るまで、膨大な知識をニアタから享受している。
その為に石化という現象自体がどういう物なのかは、カノンノも知識の上では良く知っているつもりだった。
だが、生身の人間が石化した姿を直接目の当たりにするのは、今回が初めての事になる。
加えて、それが仲間の身に起きようとは――

おずおずとティアの細い肩に手を置いてみる。
「……やっぱり、硬い……」
石の塊と化した身体は、本来彼女が持ち合わせている柔らかみを一切カノンノに伝えなかった。
人肌の温もりを感じさせない冷やかさは、砂漠の夜の冷気がティアの身体に染み渡っているかのようだ。
「……ッ……!」
瞬間的に、言い様の無い悪寒がカノンノの背筋を伝った。
硬く冷たく、そして一切の生命活動を停止した身体。極端に言えば、それは死体も同然なのだ。
目の前にいるティアは、つまりは生きたまま死んでいる。
石化を解かれる事が無い限り、彼女はここで石の亡骸を晒し続ける。
死に対する根源的な恐れ。石と化したティアの身体は、意図せずしてカノンノにそれを意識させたのだ。

湧きあがる恐怖、そして仲間をその恐怖の対象と感じてしまった事に対する罪悪感。
それらの感情から逃げるように、カノンノは視線をティアから外した。
「……?」
視線の先――ティアの背後、サボテンが立ち並ぶ場所に人影が一つ、紛れるように佇んでいた。
それもティアと同じだ。先程からまるで微動だにしていない。意識しなければ、砂漠が生み出した自然のオブジェと見間違えていたかも知れない。
「あ、あれは……!」
カノンノにとって、それは見覚えのあるシルエットだった。
「そんな、まさか……!」
掌に汗が滲み出るのが解る。ゴクリと唾を飲み込む音が、頭の中でやけに無機質に鳴り響く。
カノンノの指先は、知らず知らずのうちに小刻みに震えていた。
――ふと眼をやると、何故かティアがカノンノに大きく寄り掛って来ていた。
肩に置いている手が震えていた為に、石と化したティアの身体はそれに呼応するようにガクガクと大きく揺れていたのだ。
「……いけない!」
慌てて手を離すと、ティアの身体は数秒ほど前後に揺れるも、やがて本来のバランスを取り戻してその場に落ち着いた。
ティアの豊満な――多大な羨望の眼差しで見つめられる胸は、石と化した場合に於いては随分と重心のバランスを危うくしてしまうらしい。
カノンノがここに訪れるまでの間、石化したティアが砂漠に横倒しにならなかったのは、彼女の体勢が奇跡的なバランスを生み出していたからなのか――
「ごめんね、ティア。すぐに戻るから」
カノンノは小さな手をきゅっと握り締めて震えを抑え込むと、そう告げてティアの傍を離れた。

肩辺りで綺麗に揃えられた髪。ゆったりとした柔らかいラインを描くジャケット――
本来の輝きを完全に失ったレイピアとバックラーを目にして確信する。
ティアの肩越しに見えた人影は、やはりカノンノの知る人物の一人だった。
「エス、テル……」
ここでも同様に返事は無い。カノンノの声だけが砂漠に虚しく消えて行く。
エステルもやはりカノンノの呼びかけに応える事は無く、ただ静かに空を仰ぎ見ているだけだった。

爪先立ちで背伸びをし、カノンノはエステルの顔を覗き込む。
元より大きな瞳が、事更に大きく見開かれていた。
だがその瞳は、モスコビー砂漠の空はおろか、すぐ前にあるはずのカノンノの顔すら映し出してはいない。
あるのは灰色の一色のみ。ティアと同様に虚ろな色しか湛えられていなかった。
いつも優しげな笑みを浮かべていた、例えるならば春の日溜まりを彷彿とさせる少女。
――カノンノも、本を読むの……好きなんです?
バンエルティアの甲板でいつもの様に絵本を読んでいた時、そう嬉しそうに声を掛けてきたエステルの様子は今でも鮮明に思い出せる。
身分を隠して旅に出た、どこかの国の皇女様らしい――そんな噂が流れるのも納得できる、たおやかで優しい笑顔だった。
だが、その面影も今は無い。恐怖や苦痛といった物に歪められたまま、エステルは表情を凍り付かせている。

「……そん、な……」
目眩がする。まるで、頭の中で晩鐘が打ち鳴らされているかの様だ。
片や古来より伝えられる譜歌、片や騎士のそれを彷彿とさせる剣技。
ティアもエステルも、ベクトルこそ違えどアドリビトムが誇る一線級の使い手だ。
砂漠を徘徊する魔物風情に後れを取るなど、決して考えられなかった。
そして何よりも、二人は共通して癒しの術技に長けているのだ。
その二人が石像と化した身体を晒していると言う事は、つまり――
足の力が急速に抜ける。視界はぐにゃぐにゃと歪む。
耐え難いまでの不快な感覚に打ちのめされる余り、カノンノは地面に座り込んだ。
急激に冷え込む砂漠の夜だというのが嘘のように、額から嫌な汗が止め処なく零れ落ちていた。

ふらりとよろめいた背中に、何か硬い物が触れた。
――まさか。
もう立ち上がるだけの力は出てこなかった。上半身だけを捩じり、背中に触れた物の正体を見る。
そこに在ったのはクロエの像。石化しているクロエの脚が、カノンノの背に触れたのだ。
ティアの傍からは、石化したエステルの陰に隠れて見えなかったのだろうか。

両腕を大きく振り上げ、正に愛用の剣での一閃を放とうとした姿のまま、やはりクロエも停止している。
恐らく彼女は、自分が石になった事すら気付かなかったに違いない。
只の彫像の凹凸に成り下がった瞳は、斬るべき魔物が既にその場から去っているにも関わらず足元を睨みつけている。
凛々しく眉を吊り上げた表情は、たとえ石と化していても勇壮な物には違いなかった。
そういう意味では、クロエは彼女らしさを損なわずに石と化したと言えるのだが、その凛々しさが逆に痛々しくカノンノには思える。
「…………」
カノンノに言葉は無い。ただ、微動だにしないクロエの姿を静かに、それでいながら悲しげに見上げている。
ティアとエステル。石像と化した二人を目の当たりにした時点で、この光景にも覚悟はできていた。
癒しの術技にも長けた二人が石にされていると言う事は、それだけ前衛の生き残る可能性が落ちると言う事を意味しているのだから。

「みんな、石に……石に、なっちゃったんだ……」
涙交じりの声で、ようやくそれだけを呟いた。
整理される事無く頭の中を掻き乱す残酷な現実は、口に出すと実に僅かな言葉で言い表す事が出来てしまう。
未だ安否が直接確認できていないのは、ディセンダー・ナクリのただ一人。
だが、彼女が無事でいる可能性は極めて低い。それはティア達三人の石像が語らずとも証明してしまってくれている。
カノンノにできる事と言えば、一刻も早くナクリを見つけ出し、石化された身体を元に戻す事。それしか残されていない。
「……でも」
カバンを開け、中からカノンノは薬瓶を取り出した。その数は15個。個人で持ち運べるギリギリの量だ。
「これで、これで皆は元に戻るんだよ……ね?」
石化解除自体は、グラニデに流通する薬品・キュアボトルさえあれば、そう難しい物ではないと言われている。
カノンノ自身も万一に備えてキュアボトルは携行していた。
仮に消息を絶ったパーティ4人が全て石化されていたとしても、理屈の上では手持ちのキュアボトルで容易に石化を解く事が出来るはず。
普通に考えれば、悲観する要素など何一つ見当たらないのだが。

「……本当に? 本当にこれで大丈夫、なの……?」
だが、現実はどうだろうか。逡巡したカノンノは、無意識に疑問を口にしていた。
石化された三人の身体には、個人差こそあれ大小の幾つもの亀裂が走っている。
亀裂まで走ってしまった以上、既にティア達の身体は完全に石その物と化してしまったのではないか。そんな考えが、カノンノの頭を渦巻いていた。
既に薬品程度では解除不能な状態まで石化が進行している、という可能性も決して否定が出来ないのだ。
「もしも、もしも……これでダメ、だったら……!」
キュアボトルを使っても、石のままで居続けるティア達の姿を想像し、カノンノは慄然とした。
そもそも石化とは超自然的な現象だ。
それに対して薬品を用意した位で絶対の安心に浸るなど、所詮はヒトの驕りに過ぎないのかも知れないのではないか――

「胸と来たなら、次は尻ッ!」
何の前触れもなく、そして余りにも唐突。夜のモスコビー砂漠に、やたらと機嫌の良い声が聞こえた。
カノンノが石化がもたらす絶望に心折れそうになっているという状況に於いて、その声は余りにもテンションが高過ぎた。
「……は?」
――要するに、雰囲気ブチ壊し。
その声は、奇妙な事にクロエの居る方向から聞こえてきた。
クロエが発した声では無い事は当たり前のように解る。
彼女の身体は口まで石の塊と化しており、既に声を出す機能は失われているからだ。
ならば声の主は誰なのか。少なくとも、カノンノにとってはこれまで聞いた事の無いタイプの声だった。
「聞いたことの無い声……ううん、でも何だか聞き覚えが無くも無いような気も……」
状況が掴めないままカノンノはじわりと立ち上がると、声の聞こえた方向に向かった。
立つ力を失ったはずの脚は、余りの突拍子も無い事態にその事を忘れた様だった。

果たしてカノンノが探し求めるナクリはそこにいた。
何故、彼女がいる事に今まで気が付かなかったのか。あるいは、目の前にいる存在と彼女がカノンノにとっては一致しなかったか。
「いやぁ、なんでまたこんな絶品ネタを見過ごそうとしてたのかしらねー。うっかり早まって石化を解く所だったわ。危ない危ない」
クロエの尻に頬をじわりと擦りつけ、これ以上無い恍惚の表情を浮かべて。
「ナク、リ……!?」
カノンノはただ、常識の斜め上を行く姿を晒すナクリを呆然と見るより他に無かった。
夜風が一段と冷たさを増したような気がした。

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