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石化・凍結などの所謂『固め系』の話題について、アレコレ呟きながらじわりじわりと更新されるブログです。脱不定期更新を目指してSSにも現在挑戦中。

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ピュグマリオンのジレンマ(6) 悲しき本能と理性の間に

今思えば、誤算は二つあった。
いや、思い上がりと言い換えても良いのかも知れない。
一つはカノンノが不信感を持つ前に、手持ちのキュアボトルでティア達の石化を速やかに解くべきだった事。
確かに痴態を晒してしまったのは拙かったが、それは時間が解決してくれるレベルだ。
現在、確実にグラニデを侵食しつつある『負』との攻防戦。
熾烈さを増して行く戦いの中、こんなマヌケなエピソードはやがて記憶の隅に追いやられていくに違いない。
ここまで状況がこじれなければ、の話ではあるが。
そしてもう一つ。こちらが致命的だった。
冷静に考えれば、どうしてそんな風に考えてしまったのか。
何故あの時、カノンノも自分の嗜好に同調してくれるのでは、などと期待を寄せてしまったのか。

どの位の時間が経過しただろうか。
5分程度かも知れないし、30分位は経過しているのかも知れない。
いずれにしても、ナクリにとっては針のむしろの様な時間が過ぎた。
その間に起きた事については、語るべき事はほとんど無い。

「ええと、その、エステルは唇があんまりにも可愛いんで、もう勢いに任せてキスしてみようか、なんて事を思ったり……」
「石化したまま放っておいて、それからキス……!?」
「……いや、なんでもございません……」
カノンノの表情が引きつっている。
この期に及んで口を滑らせ、カノンノのドン引きに更に拍車を掛けてしまったようだ。
尻を見れば頬擦りし、唇を見ればキスをする。
そういう人物を世間一般で何と呼ぶかぐらいは、ナクリにも把握できた。

石化した女性に対して情愛を抱くという、ナクリの持つ嗜好。
その根底に流れる物を一言で言い表すのは、実際問題として不可能と考えて良い。
対象の人物に対する純粋な好意というストレートな感情から、各部位の肉体的特徴や服装に着眼するフェティッシュな思考。
あるいは石化するに至るまでのシチュエーションを味わうドラマツルギー的な構想力に、石化した際に取っているポーズを愛おしく感じる美意識。
更には年齢層や社会的ポジション、気質、言動、過去の経歴その他諸々に対する各種のコダワリ――
つまりは一人の女性を構成する、ありとあらゆる要素に対する感情が恐るべき高密度で絡みあった、言わば思考の最終集積体だ。
一朝一夕で形成される物ではない。断じてない。
それを僅か一晩で、おまけに即興で全て語ろうとするなど、土台無理な話だったのだ。
そもそもカノンノにはそんな嗜好は無い事ぐらい、最初から解っていたはずなのに。
つまりあれか。クロエの尻に頬擦りをしていたが為に、そこら辺の事も解らなくなるぐらいにテンションが上がってしまっていたのか。

「そ、そう、そうそうそう。あとはティアが残ってたわよね。ティアに関してはこれから説明を」
「……ううん。もう、別に説明してもらわなくてもいいよ」
「え? 説明の必要が無い、と言いますと……!?」
「大体わかったの。ナクリが、ティアに何をしていたかって事」
「え、あ、いや、まだ胸の件に関してはまだ何も言ってないと思うんですが」
「胸?」
「いやいやいや、胸に顔を埋めてたりなんかしてないですッ!」
「……わたしが思ってたよりも、ずっと凄いことしてたんだね……」
ティアについては完全に行動パターンを読まれていただけでなく、更に傷口を自分で勝手に広げた。
要するに、しどろもどろな弁明をナクリはカノンノに繰り広げたという事になる。

全身が石という無機物と化し、行動、思考の一切が完全に停止する。
解除方法は確立されているとは言え、限りなく『死』に近い状態。
石化という現象は、本来はそう言う物である。
その危機的状況に仲間を誘導し、そして見事に石化した姿を思うがままに貪る。
ナクリのそんな行動には、間違いなく倫理的ツッコミ所が存在していた。
それをカノンノから明快に付き付けられたのだ。

ディセンダー。世界樹が遣わした救世主。
カノンノが幼い頃から憧れていたおとぎ話の勇者が、仲間が石化しているのを見て欲情するような感性の持ち主でいいのか――
にわかに湧き上がった疑問は、たちまちナクリの中で罪悪感に姿を変えた。
だが、石像――それも極上レベルの物の胸や尻を貪る事で際限なくヒートアップしていた、生まれ持っての本能の猛りが即座に収まるはずも無かった。
急速に膨れ上がる、ディセンダーとしての罪悪感という名の理性。
溢れるまでに臨界を突破した、石像に対する情愛という名の本能。
ナクリの中で渦巻く両極端な二つの思考は激しくぶつかり合い、彼女を苛んでいたのである。
その結果が、この挙動不審状態だった。
そうして前後不覚に陥ったナクリが、弁解不能なレベルにまで話をこじらせるのに、そう長い時間は掛からなかった。


空を見上げていた。
夜空の星は、いつも通り静かに瞬いている。まだ夜は明けていない。
「びっくりしちゃった。ナクリ、急に走り出して倒れるんだから……」
「え、ええ。度々心配を掛けて、もう何とお詫びを申し上げてよいやらなんでしょうか……」
思い出すだけで嫌な汗が出てくる。
カノンノには自分の嗜好を理解してもらえると高を括っていたナクリは、そのカノンノにドン引きされた事に端を発して、間もなく混乱を来たした。
意味の通らない事をしどろもどろになりながらも呟き続けた挙句、石化しているエステルの胸板に頭を強打して憐れにも昏倒した。
意識が暗転する直前、かつてない程のマヌケな声が漏れたのが妙に記憶に残っている。

ナクリは今、カノンノと背中合わせに座っている。
また何かの弾みでナクリが倒れてしまってもいいように、というカノンノの提案だ。
「私なら大丈夫……多分だけど」
「そう、良かった」
先程までの狂乱が嘘のように、二人の間には静かな時間が流れていた。
「もうちょっと落ち着いたらみんなを元に戻して、バンエルティアに帰ろう?」
「ええ、そうね……」
あんな事が有った直後だと言うのに、カノンノの声はいつもと変わらず優しい。
言葉も一つ一つ、丁寧に選んでくれている印象も受けた。
その優しさが、どうにも居心地が悪かった。
仲間を恣意的に石化させるだけでも相当アレだと言うのに、更に石像と化した仲間に対してアレな言動を繰り返した事までバレた。
どんな顔をしてカノンノに向き合えば良いのか全く解らない今は、こうして背中を向けているだけでも心が休まる気がする。
事実、幾分か動揺は収まっていた。

目が覚めてからというもの、カノンノとは会話らしい会話をしていない。
ナクリがまた混乱して奇行に及ばないよう、彼女なりに配慮してくれているのかも知れなかった。
「ねえ、カノンノ?」
「うん?」
声を掛けてみた。変わらず、優しい口調で返事が返って来る。
「……今日の事。やっぱり、怒ってる?」
「ううん、怒ってなんかないよ。ナクリやみんなが無事でいてくれて、本当に良かったって思ってる。でも……」
「でも、あの、なんでしょう……?」
カノンノの言葉に含む物を感じてしまい、また口調が乱れた。
「でも……やっぱり複雑だよ。ナクリがこんな……こんな変わった趣味の持ち主だった、なんて……」
「……そう」
背中合わせになっているので、カノンノの表情は見えない。
だが、優しい中にも確かに陰りのある声を聞いて、ナクリは確信した。

カノンノは、私に不信感を抱いている。
いや、これはもう不信感だとかいう生易しいレベルに収まる話じゃない。
失望、軽蔑、呆れ。ナクリに対するマイナスのフィーリングが、短い言葉の中から感じ取れるようだった。
カノンノと触れあっている背中に、また冷たい汗が流れた。
だが、もう打つ手は何も無い。既に弁明の時間は終わったのだ。
後はカノンノの言う通りに石化しているティア達を元の身体に戻し、バンエルティアへと帰る。
そして後は、その後は――
そこまで考えようとすると、頭に刺すような痛みが走った。
ふっ、と肩から力が抜ける。
「あっ……ごめん。また変なこと言っちゃったかな……」
ナクリの微妙な変化を察して、カノンノがまた心配そうに声を掛けた。
「いいのよ。事実、だしね……」
応えてはみたものの、自分以外の物が喋っているかのような力の無い声しか出なかった。
反論はしない。いや、できるはずが無い。
カノンノはただ、ありのままの事実を言っているだけだ。
その事実を強固に裏付けたのが他ならぬナクリ自身だとは、笑えない皮肉としか言い様が無い。

それからも、特に何を話するでもなく時間が経過した。
東の空が白み始めている。間も無く、この狂乱の夜が終わるのだ。
「それで、ナクリ……もう落ち着いた?」
「ええ、一応は」
「それじゃ、そろそろ帰ろっか」
「……そうね」
万策は尽きた。もう覚悟を決めるしか無い。
そう思って立ちあがった瞬間、ナクリの視界に何か動く物が目に入った。

淡い桃色の物体が、こちらに向かってごそごそと這い寄って来る。
その動きから、生物である事はすぐに解った。
全身を覆うくすんだ桃色の鱗、槍の様に肥大化した形状の尻尾。
この砂漠に於いてそのような特徴を持つ生物と言えば、考えられる候補は一つしかない。
――バシリスクだ。
そうだ。ここは元よりバシリスクの狩場。
昼間に大きな群れを全滅させてはいるが、そもそも広大なモスコビー砂漠の事。
別の群れに属するバシリスクがこの場に現れても、何の不思議も無い。
バシリスクはほぼ一直線にこちらに向かって来ている。
その様子からして、ナクリとカノンノを獲物と定めているのは明白だ。
幸いにも相手は一匹。他に群れと思われる影は見えない。
それに、得物の大剣はすぐにでも手が届く所に置いてある。
バシリスクがこちらに辿り着くよりも早く、臨戦態勢を取る事は容易だ。
それに今はカノンノも一緒にいる。何かと気まずい状況ではあるが、二人で戦えばバシリスクなど敵ではない。
数秒で容易く粉砕できるだろう。

ちらりと後ろを振り返る。
カノンノはちょうど背を向けている状態なので、まだバシリスクの接近に気付いていない。
愛用の大剣を片手に持ったまま、スカートに付いた砂をパラパラと手で払い落としている。
「カノ……!?」
カノンノを呼ぼうとした途端、ナクリの脳裏に電流が駆け巡った。
疲弊しきっていたはずのナクリの脳細胞が、一つの方法を恐るべき速度で完成させた。
この方法なら、閉塞した状況をひっくり返す事が出来るかも知れない。
いや違う。正しくはこんな方法を取るより他に手が無いと言うべき状況なのだが、今この瞬間を逃せば、状況は今よりも更に悪化する。
だから今はこの手段に賭けるしかない。
――たとえ、それが救世主とはかけ離れた行動であったとしても、

反射的に身体が動いていた。
「カノンノ……ごめん!」
ナクリは一声詫びを入れるやいなや、カノンノの両肩を後ろからがっしりと掴んだ。
「えっ?」
「うおりゃっ!」
そしてカノンノが状況を把握するよりも前に、彼女を地面に向かって投げ飛ばす。
「きゃ……!?」
完全に虚を突かれた彼女は、いとも簡単に尻餅をついて転がった。
手加減はしていたので、特に怪我をしたような様子は無い。
「え、え。ナクリ、いったいどうしたの……ッ!?」
カノンノは突然の出来事に戸惑いの表情を浮かべていたが、瞬時にその表情は凍り付いた。
彼女が転がった先には、バシリスクが眼を血走らせて待ち構えていたからだ。
「き、きゃあああーーーっ!?」
幸運にも目の前に転がって来た獲物の首筋に、バシリスクは躊躇い無くその毒牙を突き立てた。
牙を突き立てられた首を起点に、カノンノの身体が急速に石の塊と化していく。
「ナ……」
首から始まった石化の浸食はすぐに喉へ到達し、カノンノの最後の言葉は無情にも途中で不自然に途切れた。

そうして彼女が完全に石化するまでの一部始終を、ナクリは惚けた様に眺めていた――

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