Perspective

石化・凍結などの所謂『固め系』の話題について、アレコレ呟きながらじわりじわりと更新されるブログです。脱不定期更新を目指してSSにも現在挑戦中。

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ピュグマリオンのジレンマ(完) そして、誰も居なくなる

「……そう。そうだったわね」
繋がった。
随分と長い時間を要したが、ようやく全てが繋がった。
じりじりと照り付ける太陽が、自分の意識が現実に戻った事を証明してくれている。
時間の経過とともに周囲に満ちる熱気とは反比例するように、ナクリは至って冷静に思考する事が出来た。

あの後、バシリスクは速攻で始末した。
全力で振り下ろされたナクリの大剣の軌道は、恐らくバシリスクに視覚すらされなかっただろう。
断末魔すら上げる間も無く、バシリスクは身体を真一文字に両断されて絶命した。
だが、グラニデに害を為す魔物を討伐したという実感は無かった。
バシリスクは空腹を満たそうとして狩場に現れたに過ぎないのだ。
そんな飢えた獣にカノンノを差し出したのは、他ならぬナクリ自身だ。
結果として、カノンノは石像と化して彼女の目の前にいる。

「カノンノ」
当然の様に返事は無い。
「……固まってるんだから当たり前よね。なにやってんだか」
尻餅を付いた少女の石像。それが今のカノンノだ。
愛らしい唇、なだらかな起伏を描く胸。小振りな尻は、石化時の引き締まった状態をそのまま保っているに違いない。
加えて力の限りに前に伸ばされた手。
眼の前にいる誰かに助けを求めているというシチュエーションを想像させる所作は、石像に豊かな物語性を添えていた。
フェチ的な観点で考えれば、カノンノも高い完成度の石像として仕上がったと言えるだろう。

「確かに良い出来。ベクトル的にはエステルに近い雰囲気の像だけど、うん、これはこれで初々しいペシミズムが醸し出されて……」
抑揚の無い声で、カノンノ像から感じ取れる要素をナクリは列挙してみた。
意外にもスラスラと言葉が出てくる。
「ああ、やっぱりダメだわ」
だが、カノンノの表情を見た途端に、そういった思考はあっさりと消し飛んでしまう。
彼女の表情が伝える物は一つ。絶望だ。
憧れの存在だった存在に裏切られ、その結果石と化す。
そんな理不尽な運命を唐突に突き付けられた絶望が、余りにも克明に刻み込まれていた。
大きく開いたまま凝固した口から、カノンノが残した悲鳴が今にも再生されそうな錯覚までする。
カノンノは純粋にナクリの身を案じ、そして一人でこんな危険な場所まで来てくれた。
そんな彼女に、自分はこれ程までに悲しい表情をさせてしまったのか――
たとえこれが『最後の手段』だったと言い聞かせても、ナクリの罪悪感は変わらなかった。
むしろ言葉で手厳しく批判された方が、まだ気が楽だったのかも知れない。
「……事がここに至っては、何を考えても詮無い話よね」
昨夜の事を思い出した時点で、これからナクリの取る行動は決まっていた。
まだ『最後の手段』は完了していないのだ。

カノンノからそう遠くない場所に、バシリスクが両断された屍を晒している。
「よっと。案外と簡単に取れるのね、これ」
その牙を、ナクリは得物の大剣で根元からへし折った。
本体から剥ぎ取られた牙は、未だに異様な光沢を放っている。
「うわぁ……何と言うドロドロ加減……うん?」
それが石化毒による物だという事は、すぐに解った。
「うぉ、石化始まるの早ッ!」
ナクリが身に付けているガントレット。それが牙に接している部分が薄っすらと色を失いつつある。
こうして触れているだけでも、バシリスクの牙は触れた物を緩やかに石化しているのだ。
慌てて牙を手近の岩に置いた。
ストーンチェックを装備しないだけで、ここまで違ってくるのか。
「危ない危ない。まだ固まる訳にはちょっと早いのよ」
聞く所によると、バシリスクの石化毒は本体が死亡したとしても長期間に渡って残存するそうだ。
それも、人一人を石化させるだけの毒性を保ったまま。
「にしても、自分で自分を石化する事になるなんてねぇ……まぁ、これも身から出た錆って奴か」
苦笑いを浮かべ、ナクリは呟いた。
バシリスクの牙を自分の身体に突き立て、ナクリ自身をも石化させる。
それが最後の手段の仕上げだった。

ナクリ自身も石化した経験を持つ為に解る事がある。
一つは、石化している間の意識は一切無いという事。
もう一つは、石化した前後の記憶は、酷く曖昧な物になると言う事。
石化前と石化後では、まるで時間が消し飛んだような感覚を受けるのだ。
身体の全て――脳までもが一時的にとは言え石の塊になる訳だから、ある種の記憶障害のような物を併発するのかも知れない。
それが、カノンノまでも石化させた理由だった。
あの狂乱の夜の出来事を、石化解除の際に生じる混乱によってカノンノの記憶から葬り去るのだ。
もちろん上手く行けば、ティア達の記憶もボカす事ができる。
不都合な出来事は忘却の彼方に追いやられ、加えてカノンノの石像までもが追加で堪能できる。
突発的な思い付きだが、それでいて一石二鳥の逆転ホームランという画期的な手段――
いや、いやいや。そうやって正当化するべきではない。都合良く転がり始めた思考を、ナクリは否定した。
これは所詮その場しのぎの姑息な、そして卑劣な忌むべき手段だったのだ。
最善の手段などでは断じてないが、現状を打開するにはこの方法しかなさそうなのも事実だった。

だが同時に、この方法には不確定な要素も多く絡んでくる。
四人分の記憶を操作するという荒技。
仮に成功したとしても、ふとした事から四人が事実に気付いてしまうという可能性も十分に考えられる。
エステルはまだ良い。
元より天然の傾向が強い彼女の事だ。仮に昨日の出来事を思い出したとしても、ゴリ押しでごまかし切れる自信はある。
まず問題になるのがティアとクロエの二人。
それぞれボケた点も無くはないが、基本的には聡明な女性には間違いない。
僅かな穴に気が付いてしまえば、彼女たちがそこから真実に辿り着く事はそう難しく無いだろう。
そして何よりもカノンノだ。
この場は巧く取り繕ったとしても、彼女があの夜の事を思い出してしまえば、更にカノンノを傷つける事になってしまう。
それだけは、絶対に阻止しなければならない。
その為には、より確実に記憶の混乱を引き起こす必要があった。
ティア達はナクリが倒される場面を見る事無く石化した。
当然、カノンノがやって来た事など彼女たちは知るはずはない。
対するカノンノは、自分を実質的に石化させたのはナクリだと認識している。
それと同時に、バシリスクなどナクリの敵では無い事をカノンノは良く知っている。
この前提をダイナミックに覆すのだ。

尻餅をついたまま石化しているカノンノ。
彼女はティア達からすれば、余りにも唐突に現れたように感じられるはずだ。
そして、カノンノからすれば『絶対に石化などするはずが無い』ナクリ。
本来ならばそこにいない人物、そして石化するはずのない人物までもが石化していたとしたら。
それは当事者たちの時系列に関する認識を、激しく揺さぶる事になるのではないだろうか。
――確証は無いが、試してみる価値はあった。

「よし……書き洩らしはないわよね、多分」
一枚のメモ用紙を手にし、ナクリはその内容を何度も読み返した。
ティアの胸の圧倒的な心地良さ、クロエのボディラインから滲み出る色香、エステルの唇に触れた感触――
その他諸々の三人を弄り倒した際の感想が、数枚に渡って実に詳細に書き込まれている。
何しろ自分もこれから石になるのだ。解除された時の記憶の混乱で、石像を弄っていた事を忘れてしまうとも限らない。
「あの感覚を忘れてしまうのは勿体無いのよね……それに」
性癖が赤裸々に書かれたメモ用紙、その締めの一文をしっかりと確認する。
石像の感想以上に、決してナクリが忘れてはならない事がそこには書かれていた。
「さて、と」
事前にしておくべき事は全て終わった。岩の上に置いたバシリスクの牙を再び手に取る。
ガントレット越しではあるが、石化の毒がじわじわと体内に染み入って来るのが伝わって来た。
「それじゃ、私もそろそろ腹を括る事にしますか……!」
深く、呼吸を整えた。

石化するならカノンノの傍だと決めていた。
解除時の混乱を更に効果的にするという理由もあるが、何よりの理由は――
「パンツ、丸見えになってるじゃないの」
悪いとは思いながらも、ナクリは薄く笑った。
カノンノは不幸にも、股を大きく開いた状態で石化していた。
当然、スカートの中の下着までもが、そっくりそのまま石の彫刻と化している。
「……あの状況で隠す余裕なんて、ある訳ないわよね。だいたい石化が怖くない人なんて、一人か二人だもの」
これでは元の姿に戻った瞬間に、カノンノが恥ずかしい思いをするだけだ。
その辺りはナクリもわきまえているつもりだった。
両膝を地面に落とし、正面からカノンノの身体に覆い被さる様に抱き締めた。
これでいい。このまま自分が石になれば、ちょうど良い具合にスカートの中身を隠す事が出来る。
彼女の思いを自分は一度裏切ったのだ。
その上で赤っ恥をかかせるなど、断じてディセンダーの、いや、一つの人格としてする事ではない。
これは今のナクリに出来る、精一杯の罪滅ぼしなのだ。

「ごめんね。それから……」
メモ用紙に記した最後の一文。
決して忘れまいと書き残した、カノンノに対する謝罪の言葉。
胸にしまっておくつもりだった言葉が、素直に声に出た。
石化しているカノンノに、その声は絶対に届かない。
そうだとしても、これだけは直接声に出して伝えずにはいられなかった。
「……ありがとう」
躊躇う事無く、ナクリは自分の首筋にバシリスクの牙を突き立てた。
不思議な事に痛みは無い。どうやら、石化毒は麻酔の役割も果たしているらしい。
「う……ぐッ!?」
その僅か数秒後、手で触れた時とは比べ物にならない不快感が一気に身体の中を駆け巡った。
毒が凄まじい速度で浸蝕し、ナクリの身体が内部から石化を始めている。
「こ、こ、コレ、やっぱ、気持ち悪……ッ!」
思わず苦悶の声が漏れそうになったが、必死になって飲み込んだ。
自らを石化させるのは、既にカノンノ達の記憶を混乱させる事だけが目的ではなくなっていた。
これは、けじめだ。
少なくともカノンノと同程度に、自分は石化の恐怖と苦痛を受けなければならない。
それが、ディセンダーとしてナクリが下した選択だった。
「ぅ、あ……」
間も無くして、口内が石化した。
牙を刺した場所が脳に近い場所のせいだろうか、意識が薄れて行くのも早い様だ。
あと数秒もすれば、恐らく完全に全身が石化するのだろう。

だが、不安は一切無かった。
自分にはアドリビトムという帰るべき場所がある。
このグラニデで得た仲間たちなら、必ず自分達を見つけ出してくれるに違いない。
そんな揺るぎの無い確信がナクリには有った。

今はその仲間を信じ、しばしの間の眠りに就こう。
そして眼が覚めたら、いつかカノンノ達に今日の出来事を正面から謝るのだ。
その時は絶対に間違ったりなどしない。だから今は、少しばかりの猶予期間を与えて欲しい。
必ず白黒は付ける。それが、自分が正しいと決めた事なのだから――
意識が消失する直前、久しぶりにディセンダーらしい事を考えられたような気がした。

――あ、どうせなら、キスして石化しとけば良かった、か……
最後に少し、後悔した。

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