Perspective

石化・凍結などの所謂『固め系』の話題について、アレコレ呟きながらじわりじわりと更新されるブログです。脱不定期更新を目指してSSにも現在挑戦中。

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ポリエチレン・ケイジ(3)

私の場合の3~4月は創作するに当たって鬼門なんだと、今になって実感してます(笑)
間が空きましたが、創作第3話目を掲載致しますね。
話の内容の方は至ってマイペース。
やっと石化との接点が見えて来そうな感じですが、宜しければ追記からご覧下さいませ。

<<前の話 >>次の話

手すりを右手で握りつつ、澄美はホームに続く階段をのろのろと登った。
幸い、足をくじいた様子は無い。ただ、強烈に床にぶつけた尻が階段を一歩登る度にじりじりと痛む。
「うぅ……痛い……」
片方の手で尻をさすった。だが、痛いのは尻に限った事ではない。
転倒した際に大声で悲鳴を上げてしまったので、構内でその一部始終を見ていた数名が澄美に視線を注いでいた。
尻がじりじりと痛むのなら、周りの視線はちくちくと痛む。
余りにも澄美の転倒振りが見事だった事もあって、微かにだが笑い声も聞こえて来るようだ。
痛みと羞恥で涙が滲み出そうになるのを、澄美は腹に力を入れて堪えた。
今ここで泣きだしてしまったら、更に自分は笑われる事になってしまうと知っているからだ。
尻をさする手にも、自然と力が入った。

そうして澄美が階段を登りきると、ホームに男性の声でアナウンスが流れた。
『間もなく、1番線を電車が通過します。白線の内側へお下がりください。間も無く、1番線を電車が通過します……』
「あっ……」
その途端、涙目になっていた澄美の表情がまた強張った。
イチバンセンとかハクセンとか、それぞれの単語は澄美にとってはどれも意味が解らない物ばかりだ。
だが、言葉の意味など解らなくても、身体は確かに反応をしている。
これは危険の前兆だ。この声が聞こえて来ると、決まって恐ろしい事が起こるのだと。
「え、えっと……えっとえっと……」
困った。こういう時は、一体どうすれば良かったのだろうか?
電話が掛かって来た時のように、1から10まで数字を数えてみるんだっけ?
いや、それは何かが違う様な気がする。
ハクセンがどうしたとか言っているんだから、そのハクセンを何とかすれば良いのだろうか。
それなら一体、そのハクセンってのは一体どこのどれなのか――
只でさえ鈍い思考が、恐怖で更に硬直してしまってまともに機能しない。
そうして線路側に澄美が一歩を踏み出した瞬間、不意に澄美の頬に強風が叩き付けられた。
「ひ、ひぃいぃッ!?」
頭をぶん殴る様な轟音と衝撃を撒き散らしながら、澄美の目の前すぐの場所を巨大な物体が通過して行く。
「あ、わっ、わっ、わわわわ……」
圧倒的な質量を持つ巨大で硬質な塊。それが獣の様な咆哮を上げながら凄まじい速度で大地を駆けている。
サメやウツボなどとは比較にならない。これまでの澄美の常識には無かった圧倒的な恐怖をもたらす物。
あれに少しでも身体が触れようものなら、間違いなく自分は死ぬ。
身体を粉々に粉砕され、カニのフレークの様に細切れになって息絶えるのだ――

快速電車は、ものの数秒で上倉駅のホームから去って行った。
時刻表通りに電車がホームを通過する。
それは駅という場所では日常的に繰り返される、極めて当たり前の出来事に過ぎない。
当然、快速電車が通過した後にはホームはいつもの静けさを取り戻す。
澄美と、彼女の悲鳴に驚いた人々を除いては。
「おい、あの人、大丈夫か……?」
「めちゃくちゃフラフラしてたよな……」
「あのままだと線路に落ちてたろ、あれ」
「……自殺とか?」
ホームのあちらこちらから、澄美について話す声が聞こえて来る。
澄美本人には聞こえないように小声で話しているのだろうが、澄美の耳はその全てを克明に捉えていた。
その中には彼女を蔑むような調子の物も明らかに混ざっている。
反射的に、澄美は両耳を押さえてしゃがみ込んだ。
――どうして、地上はこんな物が平気で走り回っているんだろう。
どうして周りの人たちは、こんな恐ろしい物を見ても平然としているんだろう。
どうしてわたしは、こんな目に遭わないといけないんだろう。
どうして、どうして……
頭の中で疑問が幾つも湧きあがったが、何一つとして答えは出て来なかった。
その代わりに、両目から大粒の涙が落ちた。

目的地の稲口駅には、上倉駅から普通電車に乗って30分程で到着する。
その間、澄美はできるだけ端の座席に座り、堅く目を閉じて時間を過ごす。
理由は二つある。
一つは、澄美の身体に対する視線が、車内でも容赦なく浴びせられる事。
もう一つは、眼を開けていると微妙に揺れる視界のせいですぐに気分が悪くなってしまう事。
電車に乗るという行為もまた、澄美にとっては苦行に等しい物となっていた。

実の所は、途中の快速停車駅である伊塚駅で一度下車し、そこから快速電車に一度乗り換えた方が10分以上早く稲口駅には到着する。
この苦痛な時間を少しでも減らすのであれば、本来ならそうした方が澄美にとっては良いのだろう。
だが残念な事に、普通電車と快速電車の見分けが付かない澄美には、乗り換えという行為は恐ろしく難易度が高い物となってしまっていた。
間違えた電車に乗ってしまった場合、一体自分はどこまで連れて行かれてしまうのだろうか……
もう二度と自室に戻れなくかも知れないと思うと、とてもじゃないが澄美は乗り換えをする気にはなれなかった。

澄美の乗った普通電車は、時刻表通り稲口駅に到着した。
端の座席で縮こまる様に座っていた澄美は、ドアに挟まれないように駆け足で降車した。
挟まりでもしたら大騒ぎになるからそれだけは絶対にするな、と前から強く言われているからだ。
そうやって釘を刺されているおかげで、幸いな事に澄美はまだドアに挟まるという経験だけはしていない。
ここでも澄美は改札口で立ちすくんでしまったが、彼女の姿を見た中年の駅員が事務所から声を掛けて来た。
「お客様。定期をお持ちでしたら、こちらへどうぞ」
「あ、は、はい」
のんびりとした声だった。その声の調子に少し安心した様子で、澄美は言われる通りに定期券を駅員に差し出した。
駅員が定期券を預かって事務所に入ると、程無くして端の改札機が開いた。
「はい、確かに。定期をお返ししますね」
「……あ、ありがとっ、ございます……」
頭を小さく何度も下げながら、澄美はそそくさと改札口を通り抜けた。

澄美自身は知らない事なのだが、上倉駅と稲口駅の職員の間では、彼女は結構な有名人だった。
酷く怯えたような言動は挙動不審。一般的な常識があるのかと言われれば、恐らく著しく欠けていると言わざるを得ない。
かと言って器物を損壊する訳でも無ければ、暴れるなどして他の乗客に積極的に迷惑を掛けたりする事も無い。
心配なのは時折ホームでパニックを起こす事だった。
パニックを起こされた上で線路にでも落ちてしまったら、取り返しの効かない事になってしまう。
一度、澄美の様子を見かねた駅員が乗車補助をしようと彼女に声を掛けた事があったが、結果として更にパニックを引き起こしてしまった。
迂闊に声を掛ける事が出来ないとなると、駅員にできる事と言えば、彼女が線路に落ちないように警戒する事と、こうしてスムーズに改札を通してやる事ぐらいだった。
定期券は正しい物を持っている以上、彼女もまた善良な利用者に違いは無いからだ。
今日もこうして澄美が来る事を、彼女を通した駅員は上倉からの連絡で知っていた。
上倉では不慣れな若手が対応に困ったせいで、随分と改札を通すまでに時間が掛かってしまったらしいが。
「家族がいるなら、一緒に付いて行ってあげれば良いのにねえ……」
澄美の定期券を預かった駅員は、何かに怯えるように歩く彼女の背中を見ながら呟いた。

一般的な高架駅の上倉駅とは違い、稲口駅は5階建ての駅ビルにホームが組み込まれた構造になっている。
ホームと改札口、それと駅事務所は3階に位置しており、残りのフロアにはスーパーマーケットやファーストフード店、中規模の書店がテナントとして入っている。
上倉界隈とは当然のように人口密度が違う。人目に付くのを何よりも嫌う澄美にとっては、非常に居心地の悪い場所だった。
澄美が到着した時点で、時刻は既に6時を回っていた。
買い物客のピークは一段落付く頃だが、帰宅中の高校生の姿が多い。
話し声が殊更大きな彼らは、澄美が最も苦手とするタイプの人々だ。
澄美は高校生たちの目につかないよう、駅ビルの階段を小走りに駆け下りた。

駅ビルから一歩外に出ると、澄美の顔が思わず歪んだ。
以前から商業地として発展してきた稲口駅前はデパート、多目的ホール、商店街などが密集している。
どれも決して大規模な物ではないにしても、上倉界隈と印象を異にするには十分だ。
「……早く、行かないと……」
正直な所、澄美はこの光景があまり好きではなかった。
あちこちに建っているビルはまるで壁の様だ。ビルの数だけ、何だか空が狭くなっているような気がする。
ずっとここに立ち止まっていると、そのまま息が詰まってしまいそうだった。
事務所に行くのも気が進まないが、ここで立ち止まっているよりはまだマシだ。

駅ビル前のバス停を通り過ぎ、商店街の方向へと歩いて行く。
事務所までは稲口駅から徒歩で15分程。
途中までは人の流れが途切れたりしないので、澄美でも迷わず道を進む事が出来た。
「……あ、あれ……」
そうして人の流れに沿ってロータリーまで辿り着いた時、澄美の視界に見覚えのある物が入って来た。
青いワンボックスカーだ。自動販売機に近い所に停められている。
その自動販売機の前に、やはり見覚えのある女性の姿もあった。
淡いベージュのワイシャツに黒のチノパンという活動的な服装。澄美とはまるで正反対の風貌の女性だ。
――ど、どうしよう。見つかる前に、行かないと……
そう思いつつ、その女性から顔を背けようとした途端。
「あれ、澄美ちゃんじゃない。なぁに、今日はどうしたのー?ひょっとして澄美ちゃんも事務所?」
コーヒー缶を片手に、その女性は朗らかな笑顔を澄美に向けて来た。
「し、し、しま、志麻、さん……」
澄美の同業者が、そこにいた。
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  1. 2011/04/24(日) 23:20:23|
  2. 創作
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:2
<<GW進行 | ホーム | 石化塗装で遊ぶ 凍土に佇む石像編>>

コメント

志摩という人物に、「同業者」という言葉が指すところは・・・?

電車は普段から利用する機会が多いので、快速が横切ろうが、新快速・特急が横切ろうが(いや、さすがにちょっと怖いかな・・・)、怖いと思うことはないので、快速列車が通過するときの描写は新鮮でした。
また、周囲からの視線が過酷なところの描写を読み進めているときは、読み手のこちらさえも苦しいものでした。
なんという臨場感!


導入部分は終局へ、今から本格的に世界が広がっていく様相に、次回を楽しみに待たせてもらいます!
  1. 2011/04/25(月) 03:52:39 |
  2. URL |
  3. 石眼 #-
  4. [ 編集 ]

ご感想ありがとうございます!

澄美がどんなメンタリティの持ち主か、という事が伝わったのでしたら嬉しいです。
主役としては色々と適性を欠いてる感じはバリバリしますが、こういう奴もたまにはいても良いと思ってます(笑)

澄美を中心に進めて来ましたが、次回以降は志麻を初めとして主な登場人物が揃う予定です。
毎回石化という山場を盛り込むにはまだまだ力不足ですが『石化が存在する世界』は確実に描写を重ねて行きたいですね。
ご感想は本当に励みになります。
また何かお気づきの点がありましたら、どうぞ宜しくお願い致します。
  1. 2011/04/27(水) 23:56:07 |
  2. URL |
  3. みつくりざめ #halAVcVc
  4. [ 編集 ]

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