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石化・凍結などの所謂『固め系』の話題について、アレコレ呟きながらじわりじわりと更新されるブログです。脱不定期更新を目指してSSにも現在挑戦中。

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ポリエチレン・ケイジ(4)

今回は連載4回目です。
年始に計画していたペースにまで持って行きたいですが、まだまだ精進が要りますね。
今回も追記からご覧下さいませ。


<<前の話 >>次の話

この人とは住んでいる世界が違う。
あらゆる面で自分とは違う志麻の姿を見る度に、澄美は痛切にそう思う。
表情や衣服の着こなしと言った外面的特徴は言うに及ばず、思考も澄美と志麻は根本的な所から異なっていた。
そもそも、生まれ育った場所から全く違うのだ。
互いの接点は、本来ならば無いはずだった。
ところが、澄美と志麻の付き合いは、この神手市に来てから既に半年ほど続いている。
二人の接点はただ一つ『職人』と呼ばれる事。
何もかもが真逆の二人だが、それだけは共通していたからだ。
『職人』と呼ばれる者は、只でさえ絶対数が少ない。
澄美と志麻に加え、事務所の所長ともう一人の同僚。
現在の日本で活動している職人というのは、聞く所によればこの四名しかいないらしい。
身に付いた技能を存分に活かし、そして最大限の利益を得ようとするのであれば、当然寄り合う仕組みも作られて行く。

「まあ、澄美ちゃんの場合だったら事務所ぐらいしか行く所が無いか。お買い物とか澄美ちゃんホントに苦手だしねー」
「で、です……すみません……」
「いやいや、別に気にしなくて良いって!そもそも澄美ちゃんの引きこもり体質なんて、とっくの前から解ってた事なんだもの」
ごめんごめんと言いながら、志麻は声を上げて笑った。
明朗な、そして良く通る声だった。周りに聞こえる程の声量でも、下品な印象など全く無い。
もごもごと籠ったような自分の声とは大違いだ。
同じ形の口を開けたり閉めたりしているのに、ここまで志麻と自分とで違いが出て来る物なのだろうか。
志麻と出会って以来、澄美が疑問に思う事の一つだった。

「それにこの辺、服とか揃えるのはちょーっと厳しいわよね。ほら、この辺って微妙なオバさん向けか安物かのどっちかしか置いてないでしょ?飲み食いする分にはそこそこなんだけどねぇ」
「……わ、わたしは、服とか、別に……」
「あ、でも澄美ちゃんって着たきりでしょ?うーん……勿体無い。何かこう、色々と残念よね。せっかくいい物を沢山持って生まれて来てるのに」
「あの、えっと……」
「澄美ちゃんは割と何でも似合うと思うんだけどなあ。元々の造型は結構な美人顔な訳だし。取りあえずそんなヨレヨレのTシャツはもういい加減に捨てない?古い物ばっかりにこだわってると運気が逃げるとか、最近テレビとかでよく言ってるでしょ?」
「は、はい……」
志麻と出会うと、大抵の場合こうなる。
澄美が懸命に言葉を出そうとしているのは解っているはずなのに、畳み掛けるようなペースで話を進めてしまうのだ。
当然、会話は成立していないのだが、なぜか志麻は澄美を見かける度にこうして声を掛けて来る。
極度に引っ込み事案な澄美が苦手意識を持つには、十分すぎる理由だった。
「……あ、あの、電話、ありました。わたしも、今から、事務所に……」
やっとの思いで、澄美は言葉を絞り出した。
志麻に声を掛けられた時の返答なので、やはりここでも会話は繋がっていない。
だが、志麻が相手ならこれで良いのだ。
志麻は職人である一方で、カウンセラーを営んでいるという話だった。
志麻自身は「あくまで副業」のお遊びみたいな物だとだと言っているのだが、どうやら口コミで知る人ぞ知るレベルの評判にはなっているらしい。
基本的に部屋に閉じこもるばかりの澄美とは違い、会話の経験が圧倒的に多いのだ。
彼女に相談を持ち掛けて来た客の中には、澄美と同じ様に会話が苦手な人も大勢いるらしく、志麻にとっては喋り下手はそう珍しい物では無いようだ。
「あ、そう。やっぱり澄美ちゃんも呼ばれてたかぁ」
だから、多少は話が前後しても、志麻は適切なレスポンスを返してくる。
「……は、はい。所長から、電話、あって……」
「あぁ、それ二回も言わなくても解るわよ」
「あ、すみません……」
「だから謝らなくても良いってば。本当に澄美ちゃんって腰が低いのね」
「す、す……」
「はいループ禁止ね。で、今日は一体何の用事かしらね。澄美ちゃんも呼ばれてるんだから、正直大した事じゃないと思うんだけど」
また謝ろうとした澄美の言葉を遮ると、溜め息混じりに志麻は呆れた調子で言った。
僅かに棘のある口調だった。
「いつも本当に大袈裟に騒ぐのよねー、あのオバちゃん。澄美ちゃんもそう思うでしょ?」
「へ?」
所長の件で不意に同意を求められ、澄美の口から間の抜けた声が飛び出た。
「へ?じゃないの。ぶっちゃけ、澄美ちゃんって所長をどう思ってる?いつもいつも目の敵みたいにいじめられて、たまにはムカつく事とかあるんじゃない?」
「あ、その、あの……」
口ごもっていると、志麻は澄美の目の前に顔を近づけて来た。
心なしか、先程よりも表情が険しくなっているようにも見える。
「いいから、言ってみたら?」
「うぅ……」
正直返答に困った。
実際、志麻の言っている事は正しい。
四六時中お構いなしに電話を掛けて来て澄美から平穏な時間を奪い、事務所に行けば行ったで嫌味の応酬を繰り広げる。
事務所に籍を置いてから、所長との関係はこの程度の物だ。
どれだけ澄美が内向的だとは言え、所長に対して一切の不満を抱かない訳ではない。
頭に血が上りそうになった事も、実は今までに何度かある。
だが、澄美が今暮らしている部屋を用意したのも、間違いなく所長なのだ。
部屋――更に言えば、あの冷蔵庫が無ければ、タッパーの中身は既に腐りきっていた。
そう、澄美は教えられてきている。
物事を考えるのが苦手な澄美でも、今の自分は所長に依存して生きている事は自覚できている。
だから、所長に対する不満など口に出せるはずが無い。
こんな質問をされた所で、澄美には唇をもごもごと動かす事ぐらいしかできなかった。

「……ごめんごめん。それが言えたらこんなに苦労してないわよねー、お互いに」
近づけていた顔を急に離すと、志麻はまた明るい口調に戻った。
僅かに険しく思えた表情も、先程と同じ明るい物に戻っている。
「澄美ちゃんも呼ばれてる事だし、それじゃそろそろ行きますか、気は進まないけどね」
「あ、はい……」
「それじゃどうする?せっかくだし……乗ってく?」
そう言って志麻は、ロータリーに停めてあるワンボックスカーを親指で指し示した。
ふわりと揺れた髪から、微かに甘い香りが広がった。
「まだ集合時間には余裕あるけど、事務所に着くのは早い方が良いでしょ?」
「……えっと。あの」
電車の揺れで酔ってしまう澄美は、当然のように車の揺れにも弱い。
以前にも志麻の車に乗せてもらった事はあったのが、酷い吐き気に襲われてしまい大騒ぎになってしまった。
それを思い出すと、志麻の申し出に対してもつい尻ごみしてしまう。
そんな風に澄美が躊躇っているのを読み取ったのか、志麻は言葉を付けたした。
「……澄美ちゃんが酔わないようにゆっくり運転してあげるから。だいたい私だって、また車を汚されたら困るもの」
「あ、それなら……」
他の職人たちより遅く事務所に到着すれば、時間に間に合っても所長から嫌味を言われてしまう事も考えられる。
車に乗せてもらえれば、少なくともその恐れは無くなるだろう。
それに酔わないように配慮してくれるのであれば、志麻の言葉に甘えても良いかもしれない。
「乗せて、くれますか」
「はい、決まりね」
志麻は既に飲み終えて空になっていたコーヒー缶をゴミ箱にねじ込んだ。
空き缶同士がぶつかる軽快な音が聞こえた。

「……あ、あれ……」
「うん?どうしたの?」
ワンボックスカーの扉を開けると、澄美は車内に目を引く物が置いてある事に気が付いた。
後部座席の向こう側にあるトランクに、大きな塊が横たえられている。ざっと見た所、人間程の大きさはあるだろうか。
何重にも丁寧に半透明の緩衝シートで包まれているので、全体像を鮮明には見られなかったが、それが灰色をしている事はシート越しからでも何となく解った。
「あの、志麻さん、あれって……」
「ああ?あれ?」
澄美がトランクを指差すと、運転席に腰を下ろした志麻がシートベルトを締めながら答えた。
「今月の新商品よ。ついこの前、完成したばかりなの」
「……しんしょうひん……って、やっぱり、あれ、ですか?」
「そう、あれよあれ……って、それ以外に何があるってのよ」
キーを回しながら、志麻が苦笑した。
エンジンが掛かる軽快な音が車内に響く。
車体が揺れるのと連動するように、積荷はコトコトと音を立てた。
控えめだが、車内によく響く音だった。
「そ、そうですよね……」
商品という事は、つまりあれは志麻の作品なのだろう。
耳に痛い言葉だった。
職人と大層な呼ばれ方をされていても、澄美が作品を事務所に納めた事は実はまだ一度しかない。
最初の作品を作ったのは、今住んでいる雑居ビルで暮らし始めた時の事になる。
職人として、神手市で始める新生活。その第一歩となる作品は、その頃から気弱だった澄美なりに自信を持って完成させたはずだったのだが。
――ダメ、全然ダメ。まずポーズからして不格好だし、表面もデコボコデコボコしていて見苦しいったらありゃしない。こんな雑な仕上がりの、美的センスの感じられない物、とてもじゃないけど買い手が付かないわ。
所長からの評価は、このように惨憺たる物だった。
それ以来、澄美は作品造りに対する自信も失ってしまった。
だが、志麻はそんな自分とは対照的にコンスタンスに作品を完成させており、加えてどの作品も高い評価を得ている。
そうした事実を付き付けられているようで、どうにも心苦しかった。

「せっかく事務所に行くんだから、ついでに納品も済ませとこうと思って。そうそう、それに今回のはね、結構な自信作だったりするのよ」
「……そ、そう、ですか」
「そう。表情やポーズとか前から構想練ってたんだけど、また見事にイメージ以上の仕上がりになってくれたのよ、今回は!」
志麻の声が弾んでいる。
積荷が彼女にとって会心の出来である事を、澄美は感じ取っていた。
「仮に所長の機嫌が悪くても、これ見せたら間違い無く落ち付くわよ。澄美ちゃんが怒られた時の保険にもなると思うわ」
そう言いながら、志麻も後部座席に顔を向けた。
「うんうんうん、別に動いたりしてないわよね……本当に素直な子だわ」
ふと、澄美は志麻の表情に目が行った。
志麻の大きな目が細められていた。うっとりとした表情をして、積荷の作品に視線を注いでいる。
よほど楽しい事を思い出しているのだろうか、志麻の横顔は余りにも幸福そうだった。
――どうしてこんなに、楽しそうなんだろう。
よく解らない事の一つだった。
作品を作る事が、志麻はそこまで楽しいのだろうか。
確かに完成度の評価は比較にならないが、作品を作る過程自体は志麻と澄美とでは大きな違いは無いはずだ。
――あれが、そんなに大切なのかな。
作品作りと言っても、特別な事をしている訳ではない。
神手市に来る前、海で暮らしていた頃。
志麻の言うような『作品』は、澄美は特に意識しなくても日常生活の副産物として月に幾つも造っていたのだ。
――あんなの、ただの食べカスなのに。

「ねえ、澄美ちゃん?」
「……は、はい?」
呼びかけられて我に返った。
運転席の方を見ると、志麻が少々苛立ったようにこちらを見ている。
「早く車出したいんだけど、そろそろシートベルト締めてくれない?澄美ちゃんのせいで罰金とか、私は嫌よ?」
「わ、わわっ、すみません!」
慌ててシートベルトを締めようとしたが、案の定そこでもまごついてしまい、志麻の車が稲口駅前ロータリーを出発したのは、結局それから五分ほど後の事になってしまった。

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  1. 2011/05/22(日) 22:23:35|
  2. 創作
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