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石化・凍結などの所謂『固め系』の話題について、アレコレ呟きながらじわりじわりと更新されるブログです。脱不定期更新を目指してSSにも現在挑戦中。

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ポリエチレン・ケイジ(8)

連載8回目です。
一つ前の記事でも書きました通り、以降はこれ位のペースをコンスタンスに続けて行きたいと思います。
それでは宜しければ、続きよりご覧くださいませ。



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「……えー、それから鳥皮ポン酢に砂肝ラー油掛け、スパイシーポテトとチキン南蛮にカマンベールコロッケとじゃがマヨピザに……シーフードサラダも忘れちゃいけないか。それから焼き餃子も同じように8人前ずつ……あぁ、すぅちゃんも遠慮せずに欲しい物頼んで良いからねー」
「……あ、うん。じゃあ、この蟹の爪を揚げたやつ……」
澄美は数分に渡り凝視していたメニューの一角をおずおずと指差し、テーブルを挟んで座っている亜紀に示した。
一面にちりばめられている文字の一つ一つは読む事が出来なかったが、色取り取りの料理の写真が散りばめられているので、澄美でもビジュアルで料理がどのような物であるあるかは理解する事が出来た。
「あ、ズワイガニのカニ爪フライね。そうそう、すぅちゃんってば無類のカニ大好きっ子だもんねー、それじゃこれは景気付けの意味で14人前でお願いしよっか!」
亜紀は澄美のリクエストも混ぜ、小気味の良いテンポで次々とオーダーを続けていく。
「あ、えーと……お客様?ご注文は本当にカニ爪フライが14人前と、それ以外が8人前でよろしかったでしょうか……?」
澄美と亜紀のテーブルにオーダーを取りに来た居酒屋の女性店員は、二人の客にしては余りにも桁違いの量の注文に困惑の表情を浮かべて確認した。
亜紀のオーダーを記入した手書きの伝票は、既に数頁に渡る物になっていた。
メニューに記載されている料理を片っ端から注文しているような勢いだ。
「いやいやいや、大丈夫です。お料理は絶対に残したりしませんし、お支払いもちゃんと現金一括払いしますので!」
「あ、それではオーダー通しますね……」
そう言う亜紀の口調が澱みが無かったからか、店員は怪訝な顔を浮かべつつも厨房にオーダーを知らせに向かった。
足早に去っていく店員の背中に向けて亜紀がヒラヒラと手を振る。

澄美と亜紀は、稲口駅前の繁華街の一角にある居酒屋のテーブル席に向かい合って座っていた。
毒々しい輝きを放つネオンが否応無しに視界に入る夜の駅前繁華街は、澄美一人ならば絶対に寄りつく事の無い場所の一つだ。
風景をただ眺めているだけでも目が焼かれそうな錯覚に襲われる、というのがその最たる理由になる。
事務所での打ち合わせは、午後8時を少し過ぎた頃には解散になった。
元々は澄美と伊都との間で完結する話題でもあったので、伊都が本社からの連絡を読み上げた時点で、それ以上は特に話す事も無かったのだ。
志麻は所長である伊都とまだ少し話があるらしく、解散後も事務所にしばらく残る事にしたが、澄美は適当なお辞儀をしつつそそくさと事務所から出て行った。
ただ足を運ぶだけでも気の重い場所だというのに、それに加え何故か二人から自分の作る石像には価値が無いと攻撃を受けたのだ。
今日は殊更に逃げ出したいという一念が、澄美の思考を支配していた。
ところが事務所から一歩足を踏み出せば、街は既にどっぷりと夜の闇の中。
一人で帰るにもどうにも心細くなってきた所に、後から事務所を出た亜紀に誘われ、半ば強引に居酒屋に連れて行かれたという事になる。

「あの、亜紀ちゃん……あれで大丈夫なの?」
澄美は小声で亜紀に話しかけた。
理解できる範囲を超える数字が出て来たので具体的な量は解らなくなったが、亜紀が常識外れなまでに大量に料理を注文している事は澄美もイメージとして解る。
一体どれだけの料理が出てくるのだろうか。
いや、それよりも食べ終わった後、幾ら金を払えば許してもらえるのだろうか――
少なくとも自分の手持ちを遥かに超える金を要求されると思うとどうにも落ち付かない。
そういう澄美の不安を見透かしたように、亜紀はいつも通りの朗らかな笑顔を見せた。
「ああ、お勘定の事なら心配しなくていいから。今日は全部僕の奢りだよ。前に納品した『メールを打つOLさん』の像。これが予想以上に良い値が付いてねー、懐には十分過ぎるぐらい余裕があるんだよ」
「そう、高く売れたんだね……」
売上の話題を聞いた澄美の声の調子が明らかに暗くなった事に気付いたのか、亜紀は話題が逸れる前にすぐさま言葉を続けた。
「あ、今ので誤解しちゃ嫌だよ。これはすぅちゃんの明日からの活躍を祈っての、僕主催のささやかな壮行会なんだからね」
「そ、そうこう……えっ……?」
「すぅちゃん向けに簡単に言えばね、すぅちゃんガンバレ会!」
ガンバレ、の部分に特に強いアクセントを込め、拳を力強く握りしめながら亜紀は言った。
水底の綺麗な貝殻を思わせる白い歯を覗かせる笑顔が何とも眩しい。
「が、ガンバレ会……?」
「そうだよー、所長のお小言だけでもキッツいってのに、今日はなんでか姉さんまで同調してすぅちゃんに絡んできたでしょ?もうね、すぅちゃんも相当凹んだと思うから、せめておいしい物をたくさん食べて、思いっきり元気になってもらおう、って趣旨の会!」
「……そ、そうなんだ……」
亜紀の計らいに澄美の唇が小刻みに震えた。
この唇を震わせるのは良くも悪くも感極まった時に出る澄美の癖だ。
余りにも激しく震えるので「笑っちゃいけないけどどうしても吹く」と志麻に大笑いされて以来、澄美はできるだけこの癖を表に出さないようにと頭の片隅で意識している。
今回は嬉し涙も合わせて出て来そうだったので、テーブルの上に置いてある水の入ったコップを押しつけるように口に付けて震えを抑えた。

「……うーん。すぅちゃんがここまで感激してるのに黙ってるのはちょっとアレだよね……まあ正直な所を言えばね」
感極まった様子の澄美を見ながら、亜紀は人差し指で額をカリカリと掻いた。
ばつの悪そうな苦笑いを浮かべている。
「僕が高カロリーの物をとにかくお腹いっぱい食べたいってのも理由としてはあるんだ」
「え?」
「ほら、僕も一応は育ち盛りってのもあるし、何よりこういう所って僕だけじゃ入りづらいからさ」
「どうして?」
「それは……ほら主に外見的な意味でだよ。この外見だと、こういうお店に一人で入るってのは教育上とか倫理上の理由で問題になり易い。そもそも僕らの仕事の性質上、変に揉め事起こして目立っちゃう訳にも行かないしさ」
「うーん……?」
自分と比べても遥かに賢い亜紀が揉め事を起こすような場面、またはその理由が澄美には考え付かなかった。
アレコレと可能性を考えている内に、無意識に頭を抱えてしまう。
「あああ、そんな考え込む事じゃないってば!ほら、そうこうしている間に飲み物来たよっ!」
「ご注文の生中とジンジャーエールをお持ちしましたが……あの、大丈夫ですか?」
亜紀の言葉に慌てて頭を上げると、最初に注文した飲み物を店員が運んで来ているのが目に入った。
頭を抱えてテーブルの上に突っ伏している澄美に対し、戸惑いと嘲りが混ざったような複雑な表情を浮かべている。
「ご、ごめんなさいっ!」
澄美が飛び跳ねるように上体を起こす。
「それでは、ジンジャーエールをご注文のお客様は……」
「あー、ジンジャーは僕です。で、生中はあっちのお姉さんの所に置いて下さい」
「ど、ども……」
澄美の目の前に、淡い黄金色の飲み物で満たされた容器が音を立てて置かれた。
容器の中のビールと呼ばれる液体は小さな泡を立てている。
しゅわしゅわという音は、じっと聞いていると澄美が口にするのを待ちかねている拍手のようにも思えて来た。
その色も、音も、澄美にとっては久しぶりの物だ。
少なくとも今の自室で暮らすようになってからは、片手で数えるほどしか見た事は無かった。
「そっか。すぅちゃんってビールは飲む方だったっけ。パッと見た感じは下戸っぽいから、ちょっと意外だよね」
「あ、うん。昔ね、結構好きで飲んでたから……」
「いいね、いいねぇ。僕は色んな理由で飲む事は出来ないんだけどさ、主賓のすぅちゃんがガッツリとアルコールを飲んでくれてる方が、壮行会ムードもやっぱり出てくるってもんだよ」
腕を組みながら亜紀が頷く。
「あの……亜紀ちゃん?」
「うん?」
心底から嬉しそうに振る舞う亜紀に、澄美は改めて声を掛けた。
普段から伏せ目がちの澄美が亜紀をなるべく真っ直ぐに見詰めつつ発したその声は、澄美としては最大限に明るい調子の物だった。
「今日は、ありがとうね。わたしの為にこんな事してもらって」
「だーかーら、すぅちゃんは僕相手にそんな風にかしこまらないで良いんだってば!その代わり、明日から元気いっぱいに頑張って、姉さんやおっかさんをビックリさせちゃおう!」
「……うん」
互いに可能な限りの最高の笑顔を見せながら、澄美はジョッキを、亜紀はグラスをそれぞれ手に取った。
「それでは、すぅちゃんの次回作とこれからの大活躍に目いっぱいの期待を込めまして……乾杯ッ!」
「か、かんぱい……」
二人が手にした盃が、こつんと小さな音を立てた。
澄美はジョッキを思いっきり傾け、ビールを勢い良く身体の中に注ぎ込んだ。
以前の生活――文明とは離れていても満ち足りていた日々を否応無しに思い出させてくれるその味は、悲しくなる程にほろ苦い物だった。


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  1. 2012/01/04(水) 22:00:17|
  2. 創作
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