Perspective

石化・凍結などの所謂『固め系』の話題について、アレコレ呟きながらじわりじわりと更新されるブログです。脱不定期更新を目指してSSにも現在挑戦中。

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ポリエチレン・ケイジ(9)

連載第9回です。
年始は若干立てこみましたが、とにかく創作をやりきるというのが今年の抱負。
固めに関してはスローペースな話ですので、更新についてはテンポ良く続けたい所ですね。

それでは宜しければ、以下の追記よりご覧下さいませ。


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「ほらほら、どうしたのすぅちゃん?食べる手が止まってるよー?」
「あ、う、うん……」
神手市で生活を始めて以来、亜紀が食事をしている場面には澄美も何回か遭遇はしているのだが、いつになっても澄美は言葉を失ってしまう。
それは今も同じ事で、澄美がカニ爪フライをゆっくりと咀嚼している間にも、亜紀は運ばれてきた料理を片っ端から胃袋の中へと放り込んでいく。
その速度は正に目にも止まらぬ早業、と表現されるのが良く似合う、常人離れした凄まじい物だった。
まだ幼さを多分に残している容貌の亜紀は、体型も相応に子供らしいスマートな物である。
背丈に至っては亜紀は澄美よりも頭二つは小柄なのだが、澄美が食べる量の何倍もの食事をほぼノンストップで平らげていくのだ。
亜紀に言わせればこれ位の量は『腹八分目』らしいのだが、それだけの量を毎日のように食べても均整の取れた身体付きを保っているのも澄美にとっては驚くべき事だった。
これだけの量を毎日のように食べているのであれば、普通なら亜紀は伊都を更に超える巨漢になっていてもおかしくない。
それなのに均整の取れた体型を当たり前の様に維持している事は、澄美も女性としての感覚で不思議に思っている。

そんな何度見ても信じられない光景を、澄美は半分ほどの長さにまで噛み砕いたカニ爪フライを片手に眺めていた。
「さっきも言ったけど、これはすぅちゃんが主役の食事会なんだからね。僕を見てる暇があったら、すぅちゃんもどんどん注文してよ?」
「……やっぱり、凄いね、亜紀ちゃん」
「いやあ、僕もまだまだ成長期の真っただ中だからねー。ご飯を食べれば食べるほど、その分だけ血となり肉となる物なんだよ。それに僕も姉さんやすぅちゃんみたいな身体目指してるし、これでも正直足りないぐらいかなあとか思ってるよ」
「そ、そうなんだ」
口元からはみ出たパスタを飲み込みつつ、亜紀はいつも通りの快活な口調で答えた。
彼女の前には、綺麗に料理を平らげられた皿が高々と積みあげられている。
それに皿の山は一つや二つではない。今こうして澄美の視界に入っているだけでも8つ以上は山が出来ている。
澄美も最初は皿の山が幾つまでできるか数えようとしたが、あっという間に頭の中で数えられる限界の8つを超えたので止めた。
居酒屋の店員もこまめに澄美達のテーブルにやって来ては空になった皿を厨房に運んでいるのだが、それ以上に亜紀が追加注文を繰り返す為に皿が片づく様子は一向に無かった。
周りの客にとってもそんな亜紀の姿は常識外の光景らしく、店内のあちこちから物珍しげな視線が注がれている。

――サメでも、こんなに凄かったかなあ……?
亜紀の無限とも思える食欲に、澄美は海中の暴君の姿を一瞬思い出した。
――ああ、ダメダメ。これじゃ亜紀ちゃんに悪口言ってるみたい……。
が、澄美はその空想をすぐに打ち切った。
澄美の目の前で、今も亜紀は満面の笑顔を浮かべている。
料理を勢いよく口に運び、もぐもぐと口を動かして料理を最大限に味わい、時折「うぅん」と何とも嬉しそうな声を口から漏らす――心の底から幸せそうに亜紀は食事を楽しむのだ。
普段から明るい笑顔を見せてくれる亜紀だが、こうして食事をしている時の笑顔は格別の物がある。
その朗らかで屈託の無い振る舞いは、海中の世界を思うがままに血で染めるサメとは全く性質の違う物だ。
ただたくさん食べているだけでサメと同一視するのは、澄美の拙い倫理観でも躊躇われた。
事実、亜紀の笑顔に澄美はこれまで励まされてきたのだ。
亜紀の元気な様子を目にする事で、もう少しだけ頑張ってみようという気持ちになった事は過去に何度もある。
こうしている今も、少しだけ澄美の気持ちが前向きに動いた。
「……あ、あの、あの、亜紀ちゃん」
「うん?」
亜紀がドリアを食べる手を一度止めた。唇の周りを汚しているチーズを舌をくるりと器用に動かして口の中へと放り込む。
つい先程まで二人前程の量が残っていたパスタも、いつの間にか完食していたらしい。
亜紀と澄美の目が合った。
澄美は心を決めて、居酒屋に入った時から考えていた事を口に出す事にした。
「あ、あのね。亜紀ちゃんに、お願いしたい事が、あ、あ、あるんだけど……」
澄美が途切れ途切れにそう言うと、みるみる内に亜紀は目を大きく見開いた。
「お、お、おおお……」
「あ、亜紀ちゃん?」
目を見開いたまま、亜紀は何やらうめき声を挙げている。
料理を咀嚼するのも忘れているらしく、頬をさながらハリセンボンのようにまん丸に膨らませている。
心なしか、肩を震わせている様にも見えなくもない。
「あ、あの、やっぱり……ダ……」
やっぱりダメ?と澄美が言おうとした途端、亜紀は口の中に入れていた料理を一気に飲み込んだ。
「おおおおーッ!」
「わわっ」
突然、亜紀が大声を挙げた。
反射的に澄美も小さく悲鳴を挙げる。
「来たッ!来た来た来たッ!すぅちゃんがいよいよ僕を頼りにしてくれる時がやって来たッ!うわぁ、嬉しいなあッ!」
亜紀は自分の顔の前で両手を打ち鳴らし、力の限りガッツポーズを取り、更には万歳をした。
そうかと思うと、テーブルに勢い良く両手を付いて呆気に取られている澄美の前に顔を一気に近づける。。
「それでそれでそれで?すぅちゃんが僕にお願いしたい事って何?ご飯のお代わり?それとも着たい服でも見つかった?それともまさかの通信プレイのパーティ編成の申し出とか? あ、仮にお金の事だったとしても多少だったら融通するよ?できちゃうよ?」
大きな目を輝せながら、早口で亜紀はまくし立てた。
澄美が能動的に意思表示をしたのがよほど嬉しかったのだろうか、鼻息が妙に荒い。
「あ、うん、そのね」
「そのね……何!?」
空になった皿を押し退けながら、更に亜紀が迫って来た。
皿と皿がぶつかり合い、ガチャガチャと騒がしい音を立てる。
澄美は思わず身体を仰け反らせた。
「あ、あ、あき、亜紀ちゃん」
「うん、うんうんうんッ!いかにも僕が亜紀ちゃんだよ!その亜紀ちゃんにすぅちゃんは何の用かなッ!」
澄美の頬に微妙に生温かい物が飛んだ。たぶん生唾が飛んだのだろう。
完全に興奮しきっているらしく、言っている事も微妙に意味が通らなくなっている。
亜紀が元気の良い娘である事は知っていたが、ここまで舞い上がった亜紀の姿を見るのは今日が初めてだった。
余りの勢いに思わず気押され、澄美は顔を真っ赤にして俯いた。
「そんなに近いと、ちょ、ちょっと話がしにくい……」
「……ああ、ま、そりゃそうだよね。ごめんごめん」
亜紀はばつの悪そうな笑いを浮かべながら、最初に座っていた位置に戻った。
コップに注がれたジンジャーエールを一気に飲み干し、大きく息を吐く。
先程までの極端な興奮はこれで抑えた、というサインなのだろう。
「いやね……僕から色々と話しかけた事は今まで何度もあったけど、すぅちゃんからお願い事だなんて今回が初めてだったからね。どんなお願い事をされるのかと思うと、これが不覚にもテンションがドドドドドッって上がっちゃってねー」
それでも楽しそうに亜紀は歯を見せて笑った。
「きょ、今日は志麻さんとも、こんな感じでお話してたけど、やっぱり、あんまりうまく、お話が出来なくて、それで……」
「あー……そっか。今日は姉さんと一緒に来たんだよね。運転中にもやっぱり絡まれてたかあ」
「そ、そうなの」
「正直、姉さんとすぅちゃんってキャラが正反対だもんね。すぅちゃんじゃ姉さんの絡みはちょっと厳しい所はどうしてもあるよね。で、姉さんに道中で散々絡まれて疲れちゃった、って所?」
「ご、ごめんね。亜紀ちゃんが悪いとか、そういう事を言いたいんじゃなくて……」
「はいはい、解ってる解ってる。すぅちゃんは面と向かって文句を言うようなキャラじゃない事も僕はよーく知ってるから」
「う、うん」
「こっちこそごめんね。せっかくのすぅちゃんの話の腰を折る様な真似しちゃって」
亜紀は澄美に向かって拝むように両手を合わせ、ぺろりと舌を出した。
「それじゃ改めて聞こうかな。すぅちゃんの話って、一体全体どういう話?」
「あ、ちょっと、待ってくれる……?」
「待つよ。何分でも待つ。すぅちゃんのペースで話してくれたらいいからね」

澄美は一つ、大きく肺呼吸をした。
頭の中で渦を巻いている事柄を自分なりに整理し、意味の通る文章として成立するように丁寧に並び替え、それを聞き取れるように言葉に出して話す。
それは今の澄美にとっては決して簡単な事ではなかったが、今日は亜紀の手前だ。
自分の事を気遣ってくれただけでなく、こんな食事の場を設けて励ましてくれた。
そんな亜紀の好意には何としても応えたかった。
「亜紀ちゃん、あ、あ、あのね……」
「うん」
澄美は恐る恐る話し始めた。今度は亜紀も澄美を急かしたりはしない。
口の周りの汚れをおしぼりで丁寧に拭い取り、真剣な眼差しで澄美の次の言葉をじっと待っている。
「せ、石像を作る、こ、コツ……みたいなのがあったら、お、お、教えて欲しいの……」
「コツ?石像の?」
「そ、そう。わたし、志麻さんや亜紀ちゃんみたいに上手に石像、作れないから。私も上手に石像が作れるようになったら、今日みたいに、所長や志麻さんに、怒られなくなると思うし……あの、それで、えっと……だから……」
最初こそ何とか意味の通る事を言えていたが、ものの数秒で頭の中がこんがらがって来た。
次に何をどう言えば良いのかがもう解らない。澄美の声はあっという間にボソボソとした小声になってしまった。
「……それで、すぅちゃんは今日から職人として本気出す、って事で良いんだね?」
会話が途切れないよう、亜紀が間髪入れずに澄美の言葉にフォローを入れた。
「姉さんや僕みたいに、一定の買値が付くだけの石像を作って事務所に納める。そんな風になりたいってすぅちゃんは言いたいんだね?」
亜紀が澄美の目を真っ直ぐに見つめた。
思わす澄美は生唾を飲み込んだ。亜紀の目は真剣そのものだ。
普段と変わらない優しい顔立ちでありながらも、生半可な答えならば容赦なく却下しかねない迫力が備わっている様な気がした。
澄美はゆっくりと、そして彼女なりに一つ一つの言葉をはっきりとした声で言った。
「……うん、そう。私、今日からがんばるから」
気を抜けば泳ぎ始めてしまいそうな視線も、できるだけ亜紀の目から外れない様にしながら、自分の思いを亜紀に伝えた。

数秒の間があった。
亜紀は眉間を指でつまみながら、澄美の言葉を噛み締めるように何度か頷くと、ゆっくりと顔を上げた。
「……すぅちゃんの気持ちはよく解った。すぅちゃんがそう言うなら、僕も前から言っておきたい事があったんだ」
「言いたい、事?」
澄美が不安そうに呟くと、亜紀は真剣な面持ちを崩して再びにっこりと笑った。
「あはは、ちょっと怖がらせちゃったかな。いや、そんなに大した話じゃないから気を楽にしてよ」
「そ、そうなんだ、ビックリした……」
「うーんと、そうだねえ……」
亜紀は頭をぐるりと動かして、店内の様子を二回ほど見渡した。
先程まで亜紀の食べっぷりを注目していた他のテーブルの客も、今はもうそれぞれが思うままに酒と食事を楽しんでいる。
店内が程良いボリュームの喧騒に包まれている事を確認すると、亜紀は軽く頷いた。
「まぁ、これぐらいなら大丈夫かな。普通に話してる分なら聞かれる事も無いでしょ、たぶん」
「うん?」
「僕らの仕事の話はあんまりオープンな場でする事でもないからね。一応は警戒しとかないと……あ、すぅちゃんの横、座っていい?」
「あ、うん」
亜紀は席を立つと、素早く澄美の横に腰掛けた。
ポケットに手を入れ、中から手の平ほどの何かを取り出す。
「それ、何……?」
澄美は首を傾げた。記憶にある限りではテレビに似ている気がするが、それよりも遥かに小さい。
「ああ、これ?スマホだよスマホ」
「すま……?」
またしてもも聞き慣れない言葉が出て来た。
澄美の首の傾きが更に深い角度になる。
「スマートフォン、簡単に言えば携帯電話だね。今はこういうのもあるって事」
「え、これが、電話?私の家にあるのと全然違う……」
澄美は思わず目を丸くした。
携帯電話は志麻が使っているのを何度か見た事があるが、亜紀が今触っている物は志麻が使ってるいる物ともまるで形が違うからだ。
「僕に言わせればね、すぅちゃんの部屋にあるみたいな黒電話の方が今じゃ珍しいよだよ……すぅちゃんも、もうちょっと今のガジェットの事は知っておいてもいいと思うんだけどなあ」
そう言いながら亜紀は液晶画面を手早くタッチして行く。
何だか別の世界の出来事が目の前で起きているような錯覚がして、澄美は軽く目眩がした。
「う、うん、それも、がんばる……」
「……とか何とか言ってるうちに、準備できたよ。はいコレ見て」
亜紀はスマートフォンの画面を澄美に見せた。
「わあ……」
澄美は思わず小さな感嘆の声を挙げた。
亜紀が操作を終えた画面上には、若いOLを象ったレリーフ像が映し出されていた。

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  1. 2012/01/16(月) 23:35:01|
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