Perspective

石化・凍結などの所謂『固め系』の話題について、アレコレ呟きながらじわりじわりと更新されるブログです。脱不定期更新を目指してSSにも現在挑戦中。

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ポリエチレン・ケイジ(10)

連載第10回目です。
物語の方は例のごとくマイペースな進み方ですが、文字数に関しては書くペースが上がって来たのは嬉しい所です。
でも文字数なんてのは、あくまで指標でしかありません。『物語』として楽しめる文章を目指してとにかく精進です!
あとやっぱり、石像に関する描写ってやっぱり書いていて楽しいですね(笑)

それでは宜しければ、追記よりご覧下さいませ。
<<前の話 >>次の話


「あ、あの、これって、亜紀ちゃんが作った奴……?」
澄美はおずおずと亜紀の差し出した携帯の画面を指差した。
澄美の知るテレビよりも遥かに小さな画面には、軽く握りしめた右手で耳を押さえた姿勢の女性像が映し出されている。
右足を軽く前に出している所から、何かをしながら歩いている姿の彫像である事は解った。
一体何をしている所を像にした物なのだろうか。それについては画面を一見しただけでは像の全容が解らず、澄美は小首を傾げた。
少女の身体を石の塊から掘り出したような志麻の作品とは異なり、亜紀の作品は女性像の後ろ半分が一枚の石の板に埋まり込んでいる。
それがレリーフと呼ばれる物である事は以前に事務所で聞いていた物の、画像とは言え澄美が実際に見るのは初めての事になる。
亜紀から聞く所によると、所長の伊都も志麻と同じタイプの彫像を作っているそうだ。
だが意外な事に、作品の方向性は志麻とは正反対の堅実な物らしいのだが。
事務所の面々の作品を見る機会はそう多くはなかったが、亜紀の作品は方向性が他の二人と明らかに違うという事は、何となく澄美も理解していた。
「これは来月に納品予定の物だね。作品作りのコツを話するにも、やっぱり現物を見ないと難しい所があるしね……よっと」
亜紀が慣れた調子で指を画面の上で動かすと、女性像の上半身がアップになって表示された。
先程の全体像の時とは違い、これなら表情まで手に取る様に解る。
「わ、すごい……」
「ふふん。でしょでしょ」
思わず驚きの声を出した澄美を横目で見つつ、亜紀は小さく得意気に笑った。
「それじゃあ、ちょっとすぅちゃんには考えてもらおうかな」
「え、何を?」
「この僕の作品についての感想。すぅちゃんが思ったままの事を言ってくれないかな」
「え、コツの話は……?」
何故か夕方頃に志麻と交わしていたやり取りに似た流れになって来た。
澄美が僅かに不満そうな口調でそう言うと、亜紀も負けじと唇を尖らせて答える。
「すぅちゃん。物事には段取りって物があるの。石像作りのコツの話はちゃんとするけど、それはすぅちゃんが僕が今している質問に答えてからだよ」
「う、うん、わかった……」
こういう問答形式のやり取りは心の底から苦手だが、今この場所で亜紀の機嫌を損ねてしまっては色々と拙い。
澄美は観念して画面に目を落した。

「う、うーん……」
感嘆と煩悶が半々で混ざり合った声が漏れた。
亜紀の作品であるレリーフ像を、目を見開いてまじまじと眺めてみる。
外見で判断すれば、石像となっている女性の年齢は澄美の外見年齢とほぼ同じ――23、4歳といった所だろうか。
引き締まった目元から知性と自信が垣間見える、整った顔立ちの女性だった。
髪は肩甲骨の辺りまで届くストレートのロングヘア。
丁寧に整えられている為、同じロングヘアでもだらしなく伸ばしているだけの澄美とは違って清潔感もある。
全体像では何をしている像なのか今一つ判断が付かなかったが、こうしてアップで表示されて始めて解った。
これは携帯電話で話すOLをレリーフ像にした物だ。
志麻の持っている物と似た機種の携帯電話を耳に当て、軽く口を開いている。
ほころんだ口元、僅かに覗いて見える歯――石像の口元が楽しげな笑みを浮かべた造型になっている事はすぐに解った。
その活き活きとした明るい表情は、薄い灰色のモノトーンの石で作られた石像にも随分と華やいだ印象を与えているようでもある。
一体誰と話をしている所なのだろうか。
それは画像だけでは判断できなかったが、よほど親しい相手が電話の向こうにいるであろう事は澄美にも想像が付いた。
受話器を耳に当てれば、常に萎縮し切っている自分とはまるで大違いだ。
――わたしも、こんな風にあなたと話ができたらな……
そんな事をぼんやり考えていると、亜紀が横から声を掛けて来た。
「……あ、すぅちゃんゴメン。すぅちゃんが考えてる間、ちょっと残ってる料理食べてていい?」
「え、うん、亜紀ちゃんが食べたいなら」
「悪いね、やっぱり料理は冷めちゃう前に頂いとかないとさ」
そう言いながら、亜紀は空いた片手でテーブル上の生ハムやら串カツやらをを口に運び始めた。
澄美の相談を真剣に聞いてくれていたようだが、どうやらそうしている間にも腹だけはしっかりと減っていたらしい。
「でもね、もうちょっとで答え聞かせてね。そんな難しいお話する訳じゃないから、気軽に、ね」
「う、うん……」
「あ、あと全体やアップが見たかったら言ってね。すぅちゃんの見たい所が表示されるようにしたげるから」
そう言いながらも、亜紀は八等分されたピザを丸めて口に突っ込んでいた。
口ではこう言っているが、このまま自分の話が続けばそれだけ亜紀は食事を我慢し続けるに違いない。
亜紀がまだまだ腹を空かせているであろう事を考えると、これ以上亜紀を待たせるのは申し訳ない気がしてきた。
澄美は意を決して口を開いた。

「あ、あ、あのね」
「うん?」
「あ、あの、あのね、亜紀ちゃんの、聞きたいって言ってた、感想」
「お。ひょっとしてもう感想はまとまってた?すぅちゃんもやるねえ」
ピザをゴクリと音を立てて飲み込み、亜紀が再び澄美を覗きこんでくる。
亜紀からすれば再開した食事をまた中断された形になるのだが、全く不満そうな様子は見られない。
「うん、わたし、あまり上手く話せないけど」
「そんな事は気にしちゃダメだよー。すぅちゃんが自分の意見をしっかり言う、それが一番大事な事なんだからね」
「ち、違うって、思った」
「違う?何が、どう違うのかな?」
言葉が余りにも足りなかった。
亜紀も話が見えないらしく、首を捻っている。
「えっと、し、し、志麻さんの作品と、亜紀ちゃんの作品が、違うって。そう、思ったの」
澄美が慌てて言葉を継ぎ足す。
これは紛れも無く澄美の本心なのだが、どうにも短時間では上手くまとまらない。
澄美が損をし続ける理由の一つでもある。
ところが、亜紀はそんなしどろもどろな澄美の返答を、眼を大きくして聞いていた。
「……違う。違うねぇ。そうかそうか、姉さんと僕の作品は違う。すぅちゃんはそう考えてたかぁ……」
澄美の発言を噛み締めるように繰り返している。
理由は解らないが、何だか満足そうな表情を浮かべていたりもする。
「あ、あの」
「いやいや、気にしないで。別にすぅちゃんの言ってる事が間違ってるとか、そういう事じゃないから」
「そ、そう?」
「そう。それで?どこら辺が違うって思ったのかな?」
亜紀が穏やかに回答を促してくる。
「う、うん。志麻さんのは、こう……見てると、恥ずかしくなってくるし、何だか凄い顔してるのが多いんだけど、亜紀ちゃんのは……あの」
ここまで言うと、また頭の中が渦を巻いた様にごちゃごちゃになって来た。
だが、亜紀は澄美が言葉を詰まらせるタイミングを完全に熟知しているように相槌を入れる。
「そうだねー、姉さんのはモロのエロ系だよね。ぶっちゃけると僕も姉さんの作品見てドキッとする事は多いよ。結構色んな所が露骨に出てるし」
「そ、そうなの。志麻さんのは、何だか、刺激が凄くて」
「だよねー。まぁその露骨さが男性のお客さんにはホントに受けが良いんだけれども、やたらめったらと刺激が強いってのは僕も同じ意見だよ」
「そ、そうだよね。わたし、ああいうのって、やっぱりどうしても苦手で……」
「あぁ、ごめん。すぅちゃん一回ストップ」
「これからわたしも作品を作るにしても……え?」
亜紀は手の平で珍しく饒舌に話し始めた澄美を制止した。
まるで手懐けられた犬のように、澄美もぴたりと言葉を切った。
「このまま続けると姉さんの陰口大会みたいになっちゃうよ。僕が聞きたいのはそういう話じゃない。すぅちゃんが姉さんの作品をどう思っているかはよく解ったから、次は本題、僕の作品について聞かせてもらおうかな」
「あ、うん。そうだね……」

志麻の件で少々話が脱線しかけたが、そのおかげで澄美も会話のリズムを若干掴んだようだ。
澄美は画面に映し出されている石像を指差しながら、ゆっくりと感想を話し始めた。
「亜紀ちゃんのは、まるで……生きてるのをそのまま固めちゃったみたいで……」
「生きてるのを、そのまま……いやいや、なかなか巧い事言うなぁ、すぅちゃんも」
亜紀が並びの良い白い歯を見せてニヤリと笑う。
「あ、亜紀ちゃん。口の所とか、大きくしてもらって、いい?」
「ほい来た。お安い御用だよっ」
澄美の指示通り、亜紀は本の頁をめくる様に画面の上で指をテキパキと動かす。
足元、腰回り、胸、背面、そして頭部――画面には次々と石像の各部位がアップになって映し出されていった。
「……凄いね」
「幾ら自分で作った物でも、納品しちゃったら僕の手を離れちゃうからね。そうなる前に記録だけは取っておいてるんだ」
「記録……覚えておくって事でいいよね……?でも、どうして?」
「そりゃあ、後学の為だよ」
「あ、あの、そんな難しい言葉じゃなくて……」
「ああ、ごめんね。簡単に言えば、また後で石像を作る時に、これまで作って来た石像が結構良いヒントをくれるからね……と、この辺りかな」
亜紀が手を止めた。
澄美が先程まで見ていた時よりも、更に大写しでOLのレリーフ像の唇が表示される。
ぷっくりとした形の良い唇が微かに開かれている。澄美はその空洞になっている部分を指差した。
「うん、ここ……何だか、凄く楽しそうだし、こうして見ていたら、この石像も喋りだしそうな感じがするのが、その……凄いなって、思う」
「それだッ!」
「わっ」
突然、亜紀が澄美の目の前で親指をパチンと鳴らした。
至近距離で鳴らされたので、澄美の耳にその音はやたらと響いて聞こえた。
亜紀の表情は更に嬉しそうな色を帯びている。
「今にも喋り出しそう……そこを指摘されるとか嬉しいねぇ。そうなんだよ、今回は本当にタイミングが命だったんだよ。ちょっとでも声を出されたら相手に気付かれるリスクがあった。だから声を上げるほんの一瞬を狙って作品に落とし込んだんだよねー。いやあ、今思うとホントに偶然が生んだ逸品だよコレ」
「あ、亜紀ちゃん?」
「姉さんが閉鎖的な空間の光景を石像という形で残した物だとすれば、僕の作品は日常を固形化して記録した物なんだ。だから、僕の作品に価値を見いだすとするのなら、その評価はいかに『鑑賞者にとって次の行動が容易に想像できるか』というポイントに集約される事になる!」
「う、うん……」
居酒屋の喧騒の中に紛れてしまう程度に声はボリュームを押さえていたが、亜紀は確かに興奮していた。
具体的に言っている事は良く解らなかったが、亜紀が喜んでいる事だけは澄美にも解る。
亜紀の勢いに驚きながらも、澄美は少し嬉しかった。
「僕なりにコダワった所だったから、すぅちゃんがそういう感想を言ってくれたのは嬉しいなぁ……!いや、ホントに嬉しい!」
感極まった様に亜紀は目頭を押さえた。
それがふざけてしている事なのか、それとも本当に嬉し涙を流しているのかまでは澄美には判らなかったが。
そうこうしている内に、亜紀はおもむろに顔を上げた」
「……つまりそういう事なんだよ。すぅちゃん、お世辞抜きに100点を上げちゃうよ」
「え、ひゃくてん……?」
「数字を使わずに言えば「すぅちゃんは最高に偉い!スゴイ!」ってところ」
「え、わたしが、えらい?」
予想もしていなかった自分を称賛する声に、澄美は思わず戸惑った。
ここ数カ月の暮らしでは、まるで『褒められる』という事に彼女は縁が無かったからだ。
更に亜紀は澄美に対して100点という最高の評価を与えると言う。
褒められる事を空を飛ぶのと同じ位に突拍子も無い事だと考えていた澄美には、正直どう反応すれば良いのかさっぱり見当が付かなかった。
「僕が言いたかったのはね。石像を作るという事は同じだけど、僕と姉さんでは作品の方向性は全然違うって事。僕が何も言わなくてもその答えをいきなり言えたんだから、すぅちゃんはホントに凄いと思うよ」
亜紀は澄美の肩に手を回し、ぽんと優しく叩いた。

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  1. 2012/01/29(日) 21:44:43|
  2. 創作
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