Perspective

石化・凍結などの所謂『固め系』の話題について、アレコレ呟きながらじわりじわりと更新されるブログです。脱不定期更新を目指してSSにも現在挑戦中。

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ポリエチレン・ケイジ(12)

連載第12回目です。
2月は私生活でちょっと大きなイベントがあったり、3月頭にはインフルエンザに掛かって寝込まざるを得なかったりで
いきなりペースが乱れてしまってました。
どちらも今はひと段落つきましたので、また粛々と書き続けて行こうと思います。
……一度止まってしまうと、私の場合はそのままになりがちですしね(笑)

それでは宜しければ、続きからご覧下さいませ。


<<前の話 >>次の話

画面の上で指を滑らせ、表示された石像の画像を凝視する。
この一連の流れを澄美は数回に渡って繰り返した。
亜紀の手で生み出された、荒々しいラインの石塊に浮かび上がる滑らかな曲線を持つ石像。
普段通りの生活を送る姿が一切崩されていない、言わばそこだけが時間が停止しているとも思わされるオブジェの群れ。
それらをビジュアルとして見ながら先ほど聞いた亜紀の言葉を反芻する事で、何となくだが作品作りのイメージ、更にはこれまでの問題点が見えてくる。
要するに、無駄に力を入れなければ良いだけだ。
今思えば、この街に来て最初に作った作品は余りにも力が入り過ぎていた様に思う。
良い値段が付く様な物を作ろう、所長に怒られないような物を作ろう。
そんな事を意識し過ぎるあまり、必要以上に力が入り過ぎていたのだ。

表面が凸凹になってしまったのも今なら納得が行く。
この街に来る前にも作品作りに近い事はしていたが、その時に副産物的に出来ていた石像はそんなに凸凹はしていなかったではないか。
結局の所、昔よりもちょっと力を緩めてやれば何の問題も無かったのだ。
――大丈夫、私はやればできる子。
亜紀の言葉を何度も繰り返し、自分を鼓舞する。
やればできる子。繰り返せば繰り返すほど、甘美な響きに感じられる言葉だった。
そんな事を続けている内に、次第に鼻息が荒くなった。

「あ、あの。すぅちゃん?もう、いいかなぁ……?」
画像ファイルの中身をまた最初から眺めようとした時、亜紀が控えめに声を掛けて来た。
拝むように両手を合わせ、上目づかいで申し訳なさそうに澄美を見つめている。
前髪がふわりと揺れているのは、恐らくは澄美の鼻息を浴びたからだろう。
「あ、ご、ごめんね。ちょっと、興奮しちゃって……」
ぺこりと頭を下げ、澄美は亜紀に携帯を返した。
どもりながら謝罪の言葉を口にするものの、表情はそれに反して明るい。
亜紀もすぐに笑顔を返しながら携帯を受け取り、手早くポケットに収めた。
「まぁ、僕の言いたい事は十分伝わったみたいだし、何よりもすぅちゃんがやる気を出してくれたのが一番嬉しい」
「うん……亜紀ちゃんの、おかげ」
澄美がそう言うと、亜紀はおもむろにもう片方のポケットからボールペンを挟んだメモ帳を取り出した。
その一頁を破り、さらさらと数字を書き込むと、澄美の手をぎゅっと包むようにしてそれを握らせる。
小さな亜紀の手から、ひんやりとした感覚が伝わって来た。
「これ、僕の携帯の番号」
「亜紀ちゃんの?」
「すぅちゃんの部屋にも電話あったでしょ?そこから掛けてくれれば、いつでも僕が電話に出るから」
亜紀はそこで一度言葉を切り、澄美の手を握る力を僅かに強めながらささやいた。
「これ、一応僕の個人情報が書いてある訳だから、この紙は絶対に無くしちゃダメだよ」
「あ、うん」
確かに亜紀の言う通りだ。
こうして居酒屋という社会の一部にいる今でも、自分達はあくまでイレギュラーな存在である事は澄美もそれなりには自覚はしている。
不要に社会と接点を持つきっかけを作る訳にはいかないのだ。
「まぁ、固い話はそれぐらいにして、気軽に掛けて来てもらって良いからね。どうせ電話代は事務所持ちになる訳だしさ。あ、掛け方ぐらいは解ってるよね?」
「え、でも、いきなり電話が鳴ったりしたら、亜紀ちゃん困るんじゃ……」
澄美は思わず躊躇した。
伊都との日頃から電話で辛辣なやりとりを繰り返している為に「電話が掛かって来る」という事に対してマイナスのイメージが出来上がってしまっているからだ。
いくら亜紀が良いと言ってくれていても、自分がその行為の主体になるのはどうにも抵抗がある。
だが、亜紀は構わず話を続けた。
「友達がせっかくやる気出してくれたんだもん。いつでもお手伝いできるようにしとかないとね。僕はいつでもすぅちゃんを助ける。約束するよ」
「あ、ありがとうね、亜紀ちゃん……」
思わず目頭が熱くなった。
こんなに幸せな気持ちになったのは本当に久しぶりだ。
心なしか、さっきから見ていた居酒屋の風景も輝いて見えるような気もしてきた。
「よーしっ。それじゃ景気付けにもういっちょ食べようか!頑張るにもエネルギー使うしね!」
「あ、あ、それじゃ、わたしももっと飲みたいな。亜紀ちゃん、わたしも注文して、いい?」
「もちろん!遠慮無しにガシガシバコバコッと食べて、グビグビドドドーッって飲んで行ってよッ!」
亜紀がメニューを勢い良くテーブルの上に広げて笑った。
「あはは、亜紀ちゃん、なあに、それ?」
「いやまあ、それぐらい景気よく行こうって事!」
良い笑顔だった。澄美も釣られて笑顔を返した。
想像の海で泳いでいたのを無粋な電話で叩きだされ、快速電車に轢き殺されるイメージに怯え、志麻にねっとりと絡まれ、事務所では意味の解らない嫌味を言われた。
嫌な事は相変わらずとても多かったけれど、どうやら今日は久しぶりに幸せに一日を終える事ができそうだ。
――わたしが頑張ったら、いつか、きっと。
今日だけに限った話ではない。こんな楽しい日がこれからは当たり前の様になっていくはずだ。

それに何より、上手く行けば既に過ぎ去った過去が再び現実の物になるかも知れない。
いや、知れないなんて不確かな話ではない。
しっかり者の亜紀があそこまで力を込めて言うのだ。間違いである事など考えられない。
「じ、じゃあ、ビール!さっきのを、ととと、取りあえず二つ!」
これから訪れるかもしれない幸せに満ち溢れた暮らしを夢想しながら、澄美はささやかな祝杯を挙げる事を決めた。
今夜は心置きなく酔う事ができそうだった。

波間を漂うのに似た、心地良い浮遊感に包まれながらぼんやりと夜空を見上げていた。
雲はほとんど見えない。ここから遥か西の海岸でいつか見たのと同じ様に、月は今日も冷たく、それでいて優しい光を地上に投げかけている。
心なしか体も微かに火照っているように温かい。
静かな夜だった。
少し前までは目を焼かれそうな毒々しい輝きを放っていた街のネオンサインも、心なしか随分と淡く優しい光を湛えているように見える。
耳にこびりつく様な街の喧騒も、何故か今は不思議と聞こえて来なかった。
これで波の音が聞こえてくれば文句は何も無いのだが、そんな贅沢はこの際考えない事にする。
何せ今は気分が良いのだ。
このまま目を閉じれば、質素なりにも幸せに満ち溢れていたあの日々の事が克明に思い出せるのではないかという程に――
過去の甘い記憶を引き出そうとした瞬間、どうしてか月が視界から忽然と消えた。
視界もそれに合わせて唐突に360度反転する。
「……ひゃあッ!?」
素っ頓狂な響きの驚きの声が出た。
澄美が事態を飲みこむ前に、彼女の背中に激しい衝撃が走った。
「あ痛たた……」
しこたま打ち付けた背中をさすりつつ、澄美はのそのそと起き上った。
「あ、あれぇ?」
呂律の回らない口調で呟き、きょろきょろと周囲を見回す。
ぼやけた視界に真っ先に入ったのは、空に向かって自由気ままに枝を伸ばした木々だった。
ざらざらとした感触が手に伝わるのに気付き、ぼんやりと手の平を見る。
手には乾いた土が付着している。
思考がどうも混濁しているが、それでも自分がいつの間にか屋外に来ている事だけは把握できた。
「……カニの爪、どこぉ?」
皿に盛られたカニ爪フライを求めて動かした手が虚しく宙を切る。
変だ。カニ爪フライどころかあれだけ大量にあった皿とビールのジョッキすら見当たらない。
「……あれ、ここ、外?」
辺りを数回見回して、ようやく自分が外にいる事は解った。
だが、何かがおかしい。自分は駅前の居酒屋で亜紀と一緒に楽しく飲んだり食べたりしていたはずだ。
亜紀の奢りに甘え、普段は食べる機会の無い温かいカニ爪フライを思う存分頬張り、久し振りに湧いて来た食欲に後押しされて、やはり思う存分ビールを喉に流し込んでいたのではなかったか。
ここはどう見ても屋外だ。どうして自分はこんな所で一人で寝っ転がっていたのだ。
いや、そもそも亜紀は一体どこに行ったのだろうか――
「う、うぅん……」
頭に重い痛みが走る。痛みの走ったこめかみを両手の親指でぐりぐりと押した。
この感覚には身に覚えがあった。
いつか浜辺に大量に残されていた缶ビール。
好奇心に任せてそれらを手当り次第にがぶ飲みした時も、こんな風に妙な頭痛に襲われた覚えがある。

「って事は……ええっと……」
首を鈍い動きで持ち上げ、もう一度空を見上げてみる。
木々の枝の隙間から夜空が見える。
気のせいか居酒屋に入った時より、夜の闇が濃くなっているような気もする。
澄美には時計を持つという習慣は無かったので正確な時刻は解らなかったが、夜が相当更けている事は感覚的に理解できた。
――ちょっとすぅちゃん!ホントに家まで帰れるの!?
だしぬけに、困り果てた様子の亜紀の姿が脳裏をよぎった。
――らいじょぉぶだいじょーぶ。わらひはやればできる子だもん、電車でもなんでものっちゃえるからー!
そんな亜紀に対して、手をひらひらとさせながら答える自分自身の姿が続けて思い出された。
脳内に響く自分自身の声は、今よりも更に酷く調子の狂った声だった。
「ひっく……あ、そうか……」
間抜けな音を立てて喉が鳴る。
何となく、事態がここに至るまでの過程が飲み込めて来た。
あれから亜紀の言葉に甘え、好物のカニ爪フライを肴にやはり好物のビールを飲んだ。
何せビールを飲む事自体が久しぶりだった為に止め所がよく解らず、ジョッキを空にしては亜紀に頼んで次のジョッキを注文してもらった。
途中から亜紀が飲むのを制止して来た気もするが、そこの所の詳細は記憶が混濁していてよく思いだせない。
思い出せないような細かい事は抜きにするとして、今の自分が置かれている状況を澄美なりにまとめるとこうなる。
「わたし、いっぱいお酒飲んで、寝ちゃってたんだぁ……」
胃袋からたぷたぷと音が聞こえるまで飲んだのだ。それを考えれば単純な結論だった。
だが、そこに気が付くともう一つ気になる事に突き当たった。
「……あっ、電車……」
そうだ。自分はまだ部屋に帰ってきた訳ではないのだ。
ここ稲口から自分の部屋に帰る為には、気乗りはしないが電車にもう一度乗る必要がある。
だが、前に聞いた話では、電車は一定の時刻を過ぎると朝になるまでやって来ないという。
「そ、そうだ。電車、乗らないと」
澄美は慌てて立ち上がった。
「と、ととととっ」
まだ酒が残っているらしく片足が少々ふらついたが、歩けないほどの物でもなさそうだ。
ここで呆けている訳にも行かない。
シュウデンと呼ばれる最後の電車に乗れなければ、ここから数時間掛けて歩き通さなければ部屋には帰る事が出来ない。
澄美は重い頭を抱えつつ、頼りない足取りで取りあえず視界の開けている方向に歩き出した。

5分ほど歩いてみると、自分がいる場所が何処かの検討がついて来た。
ここは稲口駅前から見える高台の公園だ。
先程まで寝転がっていたベンチのある遊歩道を抜け、柵越しに稲口駅前のビル街を見降ろして澄美は確信した。
「……と、遠い……」
情けない声の呟きが漏れた。
稲口駅前の街並みを遠目に眺めると、見慣れた稲口駅の駅ビルとロータリーらしき影が見えた。
居酒屋からどこをどう歩いてここまでやってきたかは解らないが、こうして見ると駅までは結構な距離がある。
思い切って走って行きたい所だが、まだ脚は走れる程の本調子には戻っていない。
仮に完全に酔いが覚めていたとしても、勝手の知らない夜の街を一人で走るのもどうにも怖い。
「あ、歩こ……」
他に考えも無いので、澄美は取りあえず駅に向かって歩き続ける事にした。

「……ああ……」
時計が据え付けてある広場に出た澄美は、大きく溜め息しながらがっくりと肩を落とした。
長い物と短い物。数字が書かれた文字盤の上を規則的に走る一対の物のうち、短かい物の方が1を指し示している。それは現在の時刻が午前一時である事を意味しているぐらいは知っている。
以前に夜の街を散々道に迷って徘徊した事があるが、その時もちょうど今頃となれば大多数の人間は眠りに就いていた事を思い出した。
これではもうシュウデンという電車に乗る事は出来ないだろう。
そう思うと、ただでさえ力が入らない脚から一気に力が抜けてしまい、澄美はへなへなと地面に座り込んだ
「……ど、ど、どうしよう、今から歩くのも怖いし、でもでも、ここで寝るのも寒そうだし……アレ?」
澄美がこれからどうすべきかで頭を悩ませていると、時計の奥に設置してあるベンチで何かがもそもそと動いたのが目に入った。
大きさから推察する分には、どうやら人影の様だった。

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  1. 2012/03/11(日) 22:06:55|
  2. 創作
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