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石化・凍結などの所謂『固め系』の話題について、アレコレ呟きながらじわりじわりと更新されるブログです。脱不定期更新を目指してSSにも現在挑戦中。

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ポリエチレン・ケイジ(13)

連載第13回目です。
何かと慌しくなる時期とは言え、もう少しペースは維持したい所です。
逆に慌ただしくなるからこそ、手元にある便利ツールを生きた使い方しないといけないなあ、とも。

今回は少々短めですが、ひとまずキリの良い所まで掲載させて頂きたいと思います。
むしろ次回からが物語としては本番になりますので、気持ち新たに力を入れていかないといけませんね!

それでは宜しければ、追記よりご覧下さいませ。


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人影がゆっくりと身を起こした。
「きゃっ」
それに反応して澄美の背筋がびくびくと動く。
――澄美ちゃんも一応は美人の内に入るんだから、あんまりその格好で夜にウロウロするのは止めた方が良いわよ。柄の悪い連中を下手に刺激でもしたら、とても面倒な事になるんだからね。
以前に志麻に言われた言葉が脳内で再生される。
人影が見えるベンチと自分が立っている場所との距離は見た所で5mほど。
もしも人影の正体が志麻の言うような『柄の悪い連中』だとした場合、ここで急に襲い掛かって来られても対処する自信は無い。
だからと言って、ただでさえ物事を考えるのが不得手な頭が酒で鈍っているのだ。
具体的な対策を思い付くはずも無く、結局は身を固くして人影を凝視する事しかできなかった。
「……あれ?」
澄美は小首を傾げた。
数十秒ほど小刻みに肩を震わせながら相手の様子を窺っていたが、人影は規則的に身体を上下させるだけで、特に何かをして来るようには感じられない。
「え、ええっと……だだだっ、だ、誰、あ、いや、どちら様、ですか……?」
思い切って人影に向けて声を掛けてみた。失礼の無いよう、一応言葉は選んだつもりだ。
だが、相手からの反応は何も無かった。相変わらず規則的に影が上下している。
何故か相手はこちらに気付いていないらしい。今の所は身の危険の心配は無さそうだ。
「……ふぅ」
唇を尖らせ、一つ息を吐く。
一応は自分が安全な事が解ると、急に人影の正体が気になって来た。
相手が本当に危険な存在であるかどうか、一応は安全な内に確かめておくに越した事は無い。
澄美は相手を刺激しないよう、努めて慎重にベンチに向かって歩き出した。

「……あぁ、なぁんだ」
人影を見下ろして正体を確認すると、思わず安堵の溜め息が出た。
ベンチには女性が腰掛けていた。背もたれに深く体を預け、静かに寝息を立てている。
顔を近づけてみると、化粧の匂いに混ざってほのかに酒の匂いがした。
経緯は解らないが、どうやら澄美と同様に酒に酔った挙句にこの公園で寝入ってしまったらしい。
傍らには彼女の持ち物と思われるバッグが、不用心にもファスナーが開いたまま置かれていた。
「あ、あのぅ……」
眠っている女性に更に近付いた。
夜の闇の中ではあるが、街灯の明かりで女性の容姿は判別できる。
女性の年齢は見た所で澄美と同じ程度だろうか。
肩に掛かる長さで丁寧にカットされた髪が、細面の整った顔立ちと良く似合う。
今は静かに眠っているが、目を開ければ知性的な顔立ちを見せてくれるに違いない。
線の細いスーツは寝入っている間に少々乱れてはいるが、それでも清潔感までは失われていなかった。
「ええと、お、お、OLさん、だよね」
居酒屋で亜紀の携帯を見ていた事を思い出す。
そう言えば亜紀もこんな服装の女性の事を『OL』と呼んでいた。
だからこの人もOLと呼ばれる人種である事に間違いはないのだろう。
「あ、あ、あの、あの。こ、こんな所で寝てたら、風邪、引いちゃいますよ……」
おずおずと声を掛けた。春先とは言え、夜はまだ肌寒い日が続く。
かく言う澄美も傍から見ればTシャツにジーンズという簡素な姿だったので、人の事を言えた立場では無かったのだが。
「う、うぅん……」
澄美が声を掛けると、女性は小さく声を挙げた。
心地良い眠りを妨げられたのが気に障ったのか、少々不機嫌そうな響きを含んだ声だった。
この様子では、当分この女性が目を覚ます事は無さそうだ。
「ど、どうしよう。このままじゃこの人、風邪引いちゃうし。でもでも、ここには他に誰もいないし……ッ!?」
そう口に出した途端、酒の影響で濁っていた澄美の意識が急速に覚醒した。
電気でも走った様に首をせわしなく左右に動かし、周囲の様子を窺う。
「……誰も、いない……」
自分の言葉をぼんやりと反芻した。
決して人前では主張する事は無いが、昔から腕力と視力にはそれなりの自信はあった。
離れた距離からでも獲物と外敵を的確に発見する事を可能にした視力。
それが澄美が今日まで生き続けられて来た要因の一つであった事には何の疑いも無い。
その高度に発達した視力を以てしても、今自分が立っている夜の公園には目の前で眠る女性以外に生物の影は見当たらなかった。
そう言えばベンチから転がり落ちて目を覚ましてからこの広場にやって来るまで、人と人の話し声などまるで聞こえて来なかったではないか。

「ここには、誰も……いない」
もう一度声に出してみた。今度は先程とは違い、言葉にも幾分かの力強さが宿っている。
「う……ん」
口を覆い、にわかに湧き出て来た唾液を飲み込んだ。
もう一度ベンチにいる女性を見る。
緊張して来たせいか、女性を見る澄美の眼は極端なまでに大きく見開かれていた。
女性が眠っている事を良い事に、顔を至近距離まで近づけて舐めまわすようにその容貌を目に焼き付ける。
「……きれいな、ひと」
素直な感想が口から洩れた。
志麻や亜紀が披露した女性の石像と比べてみても、決して見劣りしない――いや、違う。
自分が見つけたこちらの女性の方が上回っている。そんな自負が澄美には有った。
「こ、これなら、これなら……!」
感情が否応無しに激しく昂ぶって来た。これほど興奮したのも数ヶ月ぶりだ。
とくんとくんとくん。心臓の鼓動がいつにも増して早く聞こえる。
何か言おうと口を開けば、そこから心臓が一つ勢い良く飛び出して来そうな錯覚もする。
「……だ、ダメ。こんな時こそ、お、お、落ち着かなくちゃ」
胸の中心に手を当てて、ぎゅっと力を入れて押さえた。
眼を閉じて乱れる呼吸を整えると、自然と頭の中で一つの言葉が再生された。
――すぅちゃんなら絶対にできる!この僕が保証する、すぅちゃんはやればできる子なんだよッ!!
それは居酒屋で亜紀と交わした会話であり、澄美の頭の中で今もなお甘美な響きに感じられる魔法の言葉だった。
――そう、大丈夫。わたしは、やればできる子。
やればできる子。そう、自分もやればできるのだ。
今日まで惨めな思いをして来たのは、単に本気を出さなかったからに過ぎないのだ。
その気になりさえすれば、簡単に境遇を覆すだけの力を自分は秘めているのだ。
そして、失ったと思いこんでいた幸せを再び取り戻す事ですら――

「ようし……ようし、ようし、ようしようしようしッ!」
自分でも気付かない内に大きな声で叫んでいた。
両手の拳を固く、そして強く握り締める。
指に走る僅かな痛みは、頭の先から足元まで全身余す所なく力が漲っている事の証明に他ならない。
やればできる。そしてその『やる時』は今この瞬間の事を意味しているのだ。
そう確信した途端、澄美の腹は決まった。
「ふんッ!」
気合を込めた声と共に拳を振り降ろすと同時に、澄美の身体の輪郭が歪んだ。
波の様に揺らいだ澄美の女性としてのシルエットはたちまち崩れ、全く別の形へとその姿を変貌させて行く。
肉体を極限にまで鍛え上げた男性でも到達できない程の異常なまでに大きく隆起した両肩。
そこからはそれぞれ二本ずつ、左右合計で四本の腕が形成されていた。
易々と地面に届いて尚余りある程のだらりと下げられた長大な四本の腕。
表面には吸盤と思しき歪な円形の突起が無数に並んでいる。
「よ、よ、ようし」
そう言う震える声は、間違いなく澄美の物だ。
だが、公園の街灯に浮かぶ上がった姿は、ヨレヨレのTシャツとジーンズを着た気弱でくたびれた女性の物では既になかった。
照明の下、てらてらとした光沢を放つ赤みを帯びた濃い茶褐色の皮膚。
軟体動物特有の触手と形容するのが相応しい複数の腕をぐねぐねと夜の闇の中で蠢かせている。
人形を思わせる端正な顔立ちも今はもう確認できない。
頭部に該当する部位は楕円形の黒い遮光板のような物で覆い隠されていた。
「や、やるぞ、やるぞ、やるぞ……!」
澄美はそう呟きながら、女性に向かって一歩を踏み出した。
正確に言えば、澄美は足を使って歩いたというのはこの場合に限っては正確ではない。
何故ならば、今の澄美の脚は彼女の後頭部――人間の身体の構成ならばそう呼ぶべき部位から別に伸びた四本の腕が、それぞれ絡み合うようにして形成された物だったからだ。

人間の身体をベースに蛸をコラージュしたような異形の生物。
それこそが、今の――そして本来の澄美の姿だった。

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  1. 2012/03/25(日) 22:55:09|
  2. 創作
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