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石化・凍結などの所謂『固め系』の話題について、アレコレ呟きながらじわりじわりと更新されるブログです。脱不定期更新を目指してSSにも現在挑戦中。

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ポリエチレン・ケイジ(16)

連載第16回目です。
少々忙しい時期を挟みましたが、何とか広告を表示させる事無く更新に漕ぎ付ける事が出来ました。

さて、今回の更新分から、この物語を書くに当たってやりたかった事に入って行きます。
お話の前からアレコレお話しするのも無粋ですので、それについては日を改めてご説明させて頂きますね。
それでは宜しければ、今回も追記よりご覧下さいませ。


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「さて、お前の出し物はこれで仕舞だな」
そう言うと、銀髪の少女は身体の前で組んでいた腕を解いた。
その足元にはスナック菓子の袋と炭酸飲料のアルミ缶が数本散乱している。
澄美が高柳の生命の根源を喰らっている間、銀髪の少女もこの場所で飲み食いしていたという事だろうか。
街灯に預けていた上半身もゆっくりと起こし、澄美に向かって歩いて来る。
「お前が食事の手を止めたという事は、その女はもう石に成り果てたと考えて良いのだろう?どれ、仕上がりはこのわたしが見てやろうではないか」
愛らしいソプラノ声と老成した言葉遣い。
相反する要素が混ざり合った奇妙な語り口で話しながら、見覚えの無い少女が澄美に向かって歩いて来る。
軽やかで、そしてリズミカルな歩調だ。
少女が一歩を踏む度に、絹糸を思わせる銀の髪も合わせて軽やかに跳ねる。

「あ、あのぅ……うん?」
あなたは、だあれ?
そう言おうとしたが、澄美は不意に違和感を覚えて口を閉ざした。
余りにも堂々と、そして真っ直ぐに歩いて来る少女の姿にだ。
――あ、あれ?どうして、この子……?
生命の根源を喰らって人間を石に変える。
この現象が存在する事を知っているのは、事務所と本社の関係者しかいないはずだ。
職人と呼ばれている澄美自身ですら、最初に喰らった海水浴客の身体が自分の腕の中で石へと変化して行く事に驚いたものだ。
それなのに、どうしてこの少女はこんなにも平然と、目の前の出来事を受け止めているのだ。
――えっと、それにそれに。
問題はそれだけではない。
そもそも、どうしてこの少女は全く怯えた様子を見せないのだ。
ぐねぐねと蠢く赤黒い触手。8本にも及ぶそれらを捻じ曲げ、寄り合わせ、人間のシルエットを無理やりに模した異形の生物。
それが今の澄美だ。これまで地上の生物たちには恐怖の対象として認識されてきた姿だ。
それを直視しているのにも関わらず、何故この少女は平然としているのだろうか。

そんな事をあれこれと考えている内に、少女が澄美の真横で立ち止まった。
首を持ち上げ、澄美の顔に当たる部分を一瞥する。遮光板越しに視線が合った。
何故か身体を射抜かれるような感覚がした。
「おい」
「ふへっ……?」
横柄に声を掛けられた。妙な声が漏れる。
澄美を見上げたまま、少女は口を半月のような形にして笑顔を浮かべた。
流麗な線を描いて吊り上がった目を細め、口元からは磨かれた様に白い歯が覗いている。
無邪気さと精悍さが入り混じった、どこか少年を思わせる顔立ちだ。
「何、遠慮は要らん。お前はただ突っ立っていればそれで良い」
ニヤニヤとした笑みを浮かべてそう言うと、ヒトデを思わせる小さな掌をひらひらと振りながら通り過ぎて行った。
そのまま澄美によって石の塊と化した女性――高柳の傍に立つ。
「よっと」
「あっ……?」
予想していなかった行動に思わず声が出た。
少女は高柳の身体に跨って座り込むと、身を屈めて彼女の石の顔を覗き込んだ。
両手を頬に添わせ、今はもう何も写さなくなった高柳の眼球を至近距離から覗きこむ。
「どれどれ……」
「あ、あの」
澄美の呼び掛けはあっさりと無視された。
既に石像を眺める事に没頭しているようだ。
「ふむ……ほほう」
銀髪の少女は石の瞳を凝視したまま、感心しているように唸り声を挙げると、今度は頬を二度三度と撫で、石像の額に自分の額を軽く突き合わせた。
まるで石像を自分の物だと言わんばかりの、遠慮を全く感じさせない振る舞いだ。
澄美の作品に対するこだわりは志麻や亜紀と比べると薄いとは言え、こうも気軽に石像を扱われるのは見ていてあまり良い気分がしなかった。
「思ったよりかは悪くは無い、か……」
「あ、えっと、あんまり、その、触らないで……」
「ヒトの形は存外綺麗に残っている。雑な手法だと思ったが、これは……」
「うう」
澄美の言葉はまたも無視された。
その間も少女は身体に見合った小さな拳で高柳の胸をスーツの上から小突き、石の身体が立てるコツコツという小さな音に耳を傾けている。
「さすがにあのやり方では身体しか石には出来まい。だが……」
「えっと……うん」
声を掛けるのは諦めた。どうせ少女はしばらくはこのままだろう。
飽きた頃にまた声をかければそれで良い。
下手に声を掛けたら逆に厄介な事になりそうでもあった。

そうして数分が経った。
少女に言われた通り、澄美は彼女の行動を棒立ちのまま見ていたが、正直言って忙しない。
「わたしとしては服も一括りに石にしておきたいのだがな。これでは持ち帰った所であいつぐらいしか喜ぶまい」
「もう少し滑らかな手触りが欲しい所だ。残念ながら調度品としては今ひとつ色気や品位に欠けると言わざるを得んか」
「表情は……まあ、こんな物だろうな。バケモノを見た人間ならば至極当然の哀れに歪んだ表情だ。もう一工夫あればわたし好みだが、それを期待するの些か酷という物だろうな?」
あれやこれやと呟きながら石像を弄り、その周囲をくるくると二周三周し、また違った部位に手を這わせる――見ているだけで目が回りそうな気もする。
少女は高柳のスーツの胸元に手を突っ込んで数十秒に渡って中身をまさぐった。スーツの上からでも少女が高柳の石と化した乳房を触っている事はよく解った。
「ふむ」
少女が一息を吐いた。
石の乳房を片手で鷲掴みにした姿勢のまま、首を動かして澄美に視線を送る。
「……石へと変える過程は二目と見れぬ醜悪極まる物であったが、なかなかどうして。石自体はそれなりに見られる物になっているではないか。少なくとも安物の誹りを受ける物ではなかろうよ」
リズムを刻むように首を振りながら、楽しげに少女はそう言った。
聞き慣れない言い回しを使っていた為に発言の詳しい意図はよく解らなかったが、笑顔を浮かべている所を見ると、どうやら澄美に対しては悪い感情は持っていないらしい。
亜紀とは違う方向性で自分の作品を褒めてくれている事も何となく解った。
この子が誰だか知らないが、品評に区切りが付いたらしい今なら話ができそうだ。
澄美は少女に話しかけて見る事にした。
「……あ、あの、あなた、だあれ?」
「おおっ!?」
先程からずっと言いたかった事を口に出すと、少女の小さな両肩が同時にぴくりと動いた。
石像の乳房を弄る手が止まっている。目が大きく見開かれている。
石像に馬乗りになったまま首を亀のように伸ばし、無言で澄美を凝視している。
――しまった。やっぱり、ビックリさせちゃった……!?
散々自分の姿を見ておきながら、何故今になって驚いたのかは解らない。
だが、この場でこれ以上大声を出されても困る。
連続した食事で腹は膨れているが、この子もついでに食べて石にしてしまうべきだろうか。
澄美は触手を身構えた。少女が自分にとって良くない動きを見せようものなら、速やかに命を喰らい石にして黙らせる。
先程の高柳よりもずっと小柄な少女の身体だ。大急ぎで掻き込めば3分ほどで――
「……ほう、ほう、ほうほうほうッ!」
「ひゃっ!?」
澄美が腕を伸ばすよりも早く、少女が声を上げた。
余りにも良く通る声に、逆に澄美の身体が震えた。
「これは驚いた!およそ知性とは無縁と見えたが、よもや人語を操る程度の知性はあったとはッ!」
ポンと両手を合わせて機敏な動作で立ち上がる。
大きく見開かれた少女の瞳は、心の底から面白い物を見た喜びで輝いていた。
興味の対象が澄美の作品から澄美本人に切り替わったらしく、目を輝かせながらスタスタと澄美に近づいて来る。
「街に出向いてみるのもなかなか面白い物だ。珍奇な武器を振り回す連中にモノの記憶を読む女、そこに来てお前だ……この地に於いては当面の間は退屈をする心配は無さそうだ、いやいやいや、実に結構!」
「え、いや、あの」
「この世に私を殺せる物があるとすれば、恐らくそれは退屈ぐらいの物だろうからな……ああ、いい。何も言うな。もう少し黙ってろ?」
「わあ」
銀髪の少女は、小さな掌を澄美の顔の前に押しつけた。
軽く触れられたはずなのに、なぜだか妙に息苦しい。
少女は笑顔を保ちながら澄美の発言を制すると、値踏みをするように澄美の全身をじろじろと眺め回し始めた。
自分の背丈の倍近くは高い位置にある澄美の顔を見上げたかと思うと、くるりと澄美の背後に回って吸盤を突いたりする。
「わ、わわわ」
少女を目で追おうとしたが、逆に目が回って来た。
「磯臭くて醜悪に捻じ曲がったその姿……ああ、タコか、タコなのかお前。なるほど海の底から這い出て来た水妖の類か。ならばお前のような下賤な者が、如何なる方法と過程を踏まえて誉れ高き石化の力を有するに至った……?いや、これは中々に難しい謎掛けだな。うんうん、実に面白い!」
一通り早口で捲し立てると、はははと声を立てて少女が笑う。
余りにも一方的な態度は、澄美と話す気など全く無いと無言で示しているようでもある。
ちょっとぐらいこちらの言う事を聞いてくれても良いじゃないか。
澄美をよそに心の底から楽しそうに少女に対して、少し腹が立って来た。

「あ、あのね、あなた、だから……きゃあ!」
突然身体が前につんのめった。
僅かに怒気を込めた澄美の声は、あっという間に間抜けな悲鳴に変わった。
血煙を凝縮したような赤い少女の瞳が澄美の顔のすぐ前に現れる。
腕を引っ張られて姿勢を崩したのだと、その時点に至って解った。
「……しかし、惜しいな」
「ふへ?」
右手で澄美の触手を掴みながら、少女が囁く。
「餌場さえ間違わなければ、もう少しは生き永らえたものを」
「え……ふごッ!?」
瞬間、澄美の腹部に凄まじい衝撃が走った。
少女が自分の腹を目がけて、握り締めた拳を叩き込もうとするのがほんの一瞬だけ見えた。
身体が異様な浮遊感を伴って急上昇する。眼球が月と地面を交互に映し出した。
――この子、一体何を……?
ワンテンポ遅れて澄美はそれだけをやっと考えた。
だが、少女の言葉の意味を理解する前に、澄美の身体は頭から地面に叩き付けられていた。
「ひぎゃんッ!?」
裏返った悲鳴は、痛みよりも恐怖に因る所が大きかった。
痛み自体はそこまでの大事ではない。
今の澄美の身体は骨など一本も無い。更に柔軟性に富んだ体表が衝撃を緩和してくれている。
それよりも、状況がまったく把握出来ない。訳が解らない。
あの少女は一体誰だ。どうしてわたしを襲うのだ――
だが、少女は澄美に考える時間など与えるつもりは無さそうだった。
押し殺したようなソプラノ声がゆっくりと近づいて来る。
身体が反射的に震えていた。怖い。
「お前が何故にこの地を餌場に選んだかは知らん、と言うかそもそも興味は無い。だがな」
少女はそこで一旦言葉を切ると右足をゆっくりと持ち上げると、無言で澄美の頭部を勢い良く蹴り飛ばした。
「ふぎゃあああああーーッ!?」
澄美の身体は盛大に土煙を巻き上げながら何度も地面をサッカーボールのように跳ね、7~8メートル先の別の街灯に背中から激突した。
金属質の鈍い音が公園に低く反響する。
澄美は衝突の勢いに任せて空を見上げる形になった。

――襲われている。
衝突の衝撃で小刻みに震動する街灯を見ながら、ようやく自分の置かれている状況を澄美は理解した。
銀髪の少女に澄美は襲われている。
なぜ?どうして?
頭を瞬時に疑問が駆け巡ったが、それらを考えるのはすぐに止めた。
この少女は地上での暮らしにおける天敵だ。
生まれ持って備わっている動物的な直感が澄美にそう告げている。
天敵になぜ自分を襲うのかと問うほど、澄美は生物として愚かではなかった。
――そ、そうだ。この子、これ。
同時に少女の笑顔に似た物をどこで見たのかも解った。
鮫だ。
酷薄な笑みを浮かべる少女の面持ちは、海中で思うがままに殺戮を繰り広げる捕食者の姿そのものだった。
衝撃で持ち上がっていた頭ががくんと落ちた。
視界は未だ判然としないが、土煙の向こう側から銀髪の少女が悠然と歩いて来るのが見える。
一歩、また一歩と足を踏み締める度に、地面が鈍い音を立てて陥没していく。
「この地はな、既にわたし……ステンノの庭だ」
澄美にまっすぐ向かいながら、銀髪の少女が親指で自分自身を指しつつ言う。
ステンノ。その聞き慣れない単語が少女の名前なのか。
銀髪の少女――ステンノの表情からは先程までの親しげな笑みは既に消えていた。
その代わりに怒りが彼女を支配している事はすぐに解った。
ステンノの眼光には、鮫など比較にならない強烈な殺気を宿っていたからだ。
腹に響くような音を立てて、澄美の眼前の地面が陥没して砕け散った。
「お前のような薄汚い水妖如きが土足で踏み入り、あまつさえ餌場として居座ろうとするなど、断じて許し難いッ!」
服を着た獣が吠えた。
澄美の周りの空気までもが恐れの余りに震えているような気がした。
「ささやかな余興への駄賃だ。そのまま動くな」
ぎりぎりと音を立ててステンノは右の拳を握り締め、澄美の顔面に狙いを定めるように身構えた。
「安心しろ、一撃で殺す」
「ふひっ!?」
ステンノの言葉通り、それが自分に確実な死をもたらす物となる事を澄美は直感していた。

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  1. 2012/10/14(日) 21:48:22|
  2. 創作
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